こなつ

マルモイ ことばあつめのこなつのレビュー・感想・評価

マルモイ ことばあつめ(2018年製作の映画)
4.0
2020年上映の韓国歴史映画。「タクシー運転手 約束は海を越えて」の脚本家であるオム・ユナの長編映画監督デビュー作。脚本もオムが担当している。

朝鮮語の使用が規制されていた日本統治時代の朝鮮半島で実際に起きた朝鮮語学会事件を基に、朝鮮語の辞書を出版するために奮闘した人々の姿が描かれている。

日本統治時代の作品は、日本人にとってはやるせない胸の痛みを感じる場面が多いが、この作品はジョンハンを演じるユン・ゲサンとパンスを演じるユ・ヘジンの素晴らしい演技に終始魅了された。

舞台は、1940年代の京城(日本統治時代の韓国ソウルの呼称)親日家の父を持つ裕福な家庭の息子ジョンファン(ユン・ゲサン)は、父に秘密で失われていく朝鮮語(韓国語)を守るために朝鮮語の辞書を作ろうと各地の方言などあらゆることばを集めていた。盗みなどで生計を立てていたお調子者のパンス(ユ・ヘジン)は、学校に通ったこともなく母国語である朝鮮語の読み書きも出来ない。そんなパンスがジョンファンのバッグを盗んだことで、ジョンファンと出会い、辞書作りを通して自分の話す母国の言葉の大切さを知っていく。

第二次世界大戦後、独立した国の中で自国の言語を回復した唯一の国家。事実を基にしたこのフィクションが、彼らの命をも顧みない愛国心と「私の国」ではなく「私達の国」であると言う共同体としての強い絆を観客に突きつける。

日本の憲兵の非道な暴力や「創氏改名」・「朝鮮語文化の弾圧」は加害者としての日本人が描かれていて辛い。ただ日本人として演じている役者の台詞が聞き取れないのは、日本語としてのイントネーションがちょっとおかしい?違和感があった。そういう意味で真に迫るものに欠けているような気もしたが、それでも戦争は事実であり、歴史は変わらないし、無かったことにはできない。そんな歴史の背景を受け止めながら観ていたが、作品の中で描かれている母国語を守ろうとする人々の思い、国を愛する誇りは強く心に響いた。

ユン・ゲサンは元々好きな俳優で紳士的な立ち振る舞いが際立っている。この歴史的な物語を辛さだけでなく、温かいものにしているユ・ヘジンの演技にも感動した。ハチャメチャな生活をしていても、子供を心底愛し、その子供達のためにも未来に残る母国語を命をかけて守った彼の愛は素晴らしく、ただただ涙した。
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