いわし亭Momo之助

犬鳴村のいわし亭Momo之助のネタバレレビュー・内容・結末

犬鳴村(2020年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

封印の可能性大の禁忌作品である。

宣伝担当者に特別賞をあげたくなるくらい煽情的な惹句と激ヤバシーンをほんの一瞬見せる(ドッ! とか グシャッ!! とか)予告編がお見事。『パラノーマル・アクティビティ』まんまなフェイクドキュメントでスタートする辺りも、ゆうつべの人気企画を思わせる。もはやホラー映画でもSNS的視点は欠かせなくなった。
一つ一つ丁寧に揚げ足を取っている(苦笑)批評もあるようだが、そもそも超常現象をテーマに描いている時点でリアリティもへったくれも、あったもんじゃないわけで、それを言い出せば、作品の成り立ちそのものからしてオカシイのだから、映画におけるリアリティ について何も分かっていない と言う他ない。

『スター ウォーズ』で描かれた宇宙空間でのドッグファイトが、全くの無音の中で行われていたら、あんな名シーンの連続になっただろうか? 『2001年 宇宙の旅』の宇宙空間での作業シーンでは、飛行士の呼吸音“スーハー スーハー” (苦笑)だけが唯一の音だったけど、リアリティこそがあの映画のキモだから、キューブリック監督の判断はお見事だし。そもそもじゃあ、良い感じのシーンに良い感じで流れる映画音楽 ってなんやねん ということにさえなってくるぞ。
そんなことよりも、ええんかいな!? と思ったのは、犬鳴村という地名の由来となる山犬の食肉加工の件(くだり)で、新型コロナウィルスの発症原因が蛇食(前回のSARSの時はハクビシンだったし。んなもん、喰うなよ)とまことしやかに語られているあたり、野生動物をむやみやたらと食すことの危険性が想起されて気持ち悪い。そもそも食肉加工という職業自体、忌み嫌われてきた歴史もある。
ヒロイン 臨床心理士・森田奏(三吉彩花←この人 凄い好きなタイプ)が見せられる犬鳴村のフィルムから受ける印象も、まるで山窩のドキュメンタリーのようでもあり、『獣人雪男』『九十九本目の生娘』といったかつての封印作品に描かれた“隔離され人々から忘れ去られた因習の村”を彷彿させる。これはアメリカ映画に出てくるホワイトトラッシュ(『悪魔のいけにえ』『イージー ライダー』等々)に通じるイメージでもある。
少女時代の奏には、先祖のお墓に立つ霊が見えるが、母(森田綾乃(高島礼子))方の婆ちゃんは、あの人は怖くない と教える。それは、彼が婆ちゃんの父、奏の曾祖父だったからで、見えるのも、心配ないのも、むしろ守ってくれるのも、当然と言えば当然なのだ。そもそも、霊なんて、ごくごく自然に我々と共存しているわけで、要は見えるか 見えないか だけでしかなく、あるものはある。いわし亭にはそんなものはモチロン見えないし、見たいとも思わないが…
また、霊的な現象に面白半分の不真面目な態度で関わってはいけない というのは映画のお話以前の大前提である。例えば昭和40年代後半に大流行した“コックリさん”など、低級な動物霊が集まってくる可能性もあり、此奴らに憑依されると色々面倒だ。まぁ、今日的には、こうした症状は、精神病理学が分析し、精神疾患のいずれかに分類され、治療が検討されるわけだが。むしろ、犬鳴村の恐怖体験から、おかしくなった西田明菜(大谷凜香/奏の兄 森田悠真(坂東龍汰)の彼女)が失禁しながら歩き回るシーンの方が、美人なだけによっぽど不気味で、怖かった。
また、こうした霊障を扱った映画自体も真面目に制作される必要がある。例えば“四谷怪談”などは新作が制作される度に、四谷於岩稲荷田宮神社に関係者がお参りに行くのが恒例になっている。
深夜二時にかかってくる公衆電話。この電話に出ることで、普段はブロック塀で封鎖されているはずの犬鳴トンネル(魔界)の扉が開く という設定。またこの電話ボックス、こちらの想定以上にトラップ満載のヤバさで嬉しい。ゾンビの群れの様にやってくる村人の霊(CGしょっぱい(苦笑))、ダム工事業者のリーダーとして当地に赴任した森田家の曾祖父(旧家の長押に飾られた先祖の肖像写真はマジ、不気味でいわし亭的にもトラウマがある)、彼らに騙されダムの底に沈められた村あるいは先祖代々の墓、だから森田家に関わる人間は陸の上で溺死する という因縁、それぞれのピースがうまく落としどころを見つけながら、大きな絵を完成させていく流れは中々に面白い。
森田家の曾祖父は犬鳴村をダムの底に沈めるため、村人が野犬と交わっている という悪い噂を流して、村を忌み嫌われる存在に貶めるのだが、ドラマの中で綾乃が犬のような所作を取ったり(高島礼子さん おつかれさまです)、ラストシーンで奏に犬歯が生えてくるといった演出は、直接的に過ぎる完全な蛇足である。
例によって、隣の高校生(?)カップルのJKは、全編の三分の一くらい画面を見れずにいて、時と場合によっては彼氏に抱きついたりしていて、席も立ったりして、う~ん これこそこの作品の正しい鑑賞態度だなぁ と納得。映画館のあるファッションビル E-MAの地下には清水崇監督が監修した季節外れのお化け屋敷もお目見えし、外まで聞こえてくる入場者の悲鳴の方がよっぽど怖い(苦笑) 上々の仕上がりだったようだ。

地図にない場所なんて、日本中に散在している。ちなみに実家の近くには犬鳴山(意外にありきたりな地名なのかもしれないな)があるし、マンションの近くには大阪府下屈指の心霊スポットと言われている地下道がある。