九月

クーリエ:最高機密の運び屋の九月のレビュー・感想・評価

4.5
エンタメ性の高いスパイ映画のような銃撃戦やカーチェイスなどは皆無で派手さはないものの、全体的に漂う緊張感とそれぞれの人間性が伝わってきて感情移入してしまい、手に汗握りっぱなしで、最後は胸が締めつけられるような気持ちに。
こういったスパイものも良いなあ…としみじみするも、これが事実に基づいた物語というのだから恐ろしい。

キューバ危機が勃発した1962年、戦争を回避するため、CIAとMI6に目をつけられた英国人セールスマンがソ連の機密情報を運ぶためにモスクワへ飛び、GRU(ソ連軍参謀本部情報総局)の高官と接触を重ねることに。

スパイの経験などは一切なく、セールスマンとしての仕事をこなし妻と子どもと三人で暮らすグレヴィル・ウィン。
仕事の一環としてモスクワに出向くと見せかけ、そこで現地のペンコフスキー大佐から受け取った情報を持ち帰るという大役を任される。
"運ぶだけ"といっても、やはり人間がやることなので、重圧や家族に秘密を抱える罪悪感、ペンコフスキーとの国境を越えた絆などが生まれていく。
また、このことがソ連に見つかり、機密情報の内容に関与していると見なされると重罪に問われるかもしれない。一般人だった彼がどうしてこんなことに巻き込まれなくてはならないのか…という気持ちになりながらも、彼の働きがあったからこそ核戦争を回避し多くの命が救われることになった。

主人公に感情移入しつつも、ソ連側のペンコフスキーがまた偉大で、彼のような人がいなければ、彼の犠牲がなければ世界は別の運命を辿っていたのかと思うと、観賞後ずしんと重い気分になった。
彼の家族のことを思って辛くなってしまう。

主人公の息子アンドリューが父親によく似ていて、本当の親子のようで癒された。どうやら、起用されたキア・ヒルズくんはカンバーバッチの幼少期にそっくりらしい。
九月

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