エイデン

アスのエイデンのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
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1986年
飢餓やホームレスに苦しむ人々のため、カリフォルニアからニューヨークまでアメリカを東西に渡り、人が手と手を取って繋ぐという慈善イベント“ハンズ・アクロス・アメリカ”が行われていた
そんな中、黒人一家に生まれた幼い少女アディは、両親に連れられビーチ “サンタ・クルーズ”の隣にある遊園地に遊びに来ていた
多くの人で賑わう中、母親がトイレに行き父親がゲームに夢中になっている間、暇を持て余したアディは、両親の言いつけを無視して1人で出かけて行ってしまう
海岸をぶらついていたアディは、そこで見つけた屋敷を探索するアトラクションに入っていく
中には鏡張りの部屋があったが、そこで突然の停電に見舞われ、アディは口笛で恐怖を紛らわせながら出口を探す
しかしそこでアディは、まるで自分の瓜二つの少女と出会い・・・
そして現在
大人になったアディは優しく陽気なゲイブと結婚、ゾーラとジェイソンの2人の子どもをもうけていた
一家は休みを利用して、アディの旧家でもある田舎の別荘へ遊びに来ていた
ゲイブは家族に内緒で買った中古のボートを湖に浮かべ、皆を楽しませようと大はしゃぎしていたが、スマホに夢中なゾーラや少し変わり者のジェイソンは呆れ気味
中でもアディは、昔の記憶が蘇り憂鬱な気分が晴れずにいた
遊園地での騒動の後、アディは心的外傷後ストレス障害からしばらく失語症になってしまっており、孤独な幼少期を過ごしていたのだ
のんびりと過ごすつもりだったアディに、ゲイブは友人のジョシュと約束をしてしまったとサンタクルーズのビーチへ行く予定であると語る
あの遊園地にほど近いことにアディは不安を覚えるが、ゲイブに半ば無理やり説得され、一家はサンタクルーズへと向かう
その途中 遺体を搬送する場面に出くわし、アディは遺体があの遊園地で見かけた人物であるように見え ますます不安が募る
ビーチではジョシュらタイラー一家が待っており、思い思いに過ごし時間を潰し始めるが、なかなか馴染めないジェイソンは1人トイレに立っていた
そこでジェイソンは、何もない浜辺で不釣り合いな厚手のコートを身にまとった男が両手を広げている姿を見かける
その手には血が滴っていた
何事もなく無事に帰ってきた一家だったがアディはトラウマが蘇り、その夜 家に帰りたいとゲイブに零す
昔 遊園地であったことを打ち明けるアディだったが、ゲイブはあまり真面目に取り合わず苛立ちが募る
その時 突然停電が発生し、アディはパニックに陥ってしまう
更にジェイソンが外に誰かがいると言い始め、確認すると家族らしき4人組が手を繋いでジッとこちらを見ながら立ち尽くしていた
騒ぎを聞いて起きてきたゾーラや家族を守ろうとゲイブは外に出て、謎の4人組に警告を発するが微動だにしない
アディは警察を呼び、ゲイブは金属バットを手に再び4人組に警告を発すると、突然4人組は合図と共に動き始め、家の中に押し入ろうとしてくる
置き鍵が見つかり錠を開けられ、ゲイブは扉を押さえつけるが、バットで脚を殴りつけられ侵入を許してしまう
リビングで対峙した4人組は一様に赤い繋ぎとハサミを身に付けていたが、その顔はまるで自分達と瓜二つで・・・



ジョーダン・ピール監督、脚本、製作によるホラー映画

監督が同じく脚本も手がけた前作『ゲット・アウト』では、不可思議なホラーに黒人差別という社会派なメッセージを紛れ込ませた傑作としてアカデミー脚本賞を受賞したけど、本作もただのホラーではなく強いメッセージ性を感じる仕上がり

自分が襲いかかってくるという悪夢のような設定に、王道のようにも見える展開はホラー作品として十分見もの
『ゲット・アウト』よりも直接的なホラー描写も多いので何も考えなくても面白い
ただ作品の本質は観客が考えることにあって、読み取って行くと更なる面白さと恐怖が感じられるという2度美味しい仕様になってる

自分との戦い、自分を殺す
慣用句にもある言葉だけど、それがそのまま作品の持つメッセージとして表れる
両方とも言わば自分と向き合うことであるんだけど、物理的に自分と向き合うっていう薄気味悪さが画として表れながら、その実は自分が押し込めていた自分自身でもあるわけで
ただ、本作の真髄はあらすじとなるここだけでは分かりにくいのも事実
割と後半で直接的にもう1人の自分とは何かが語られるんだけど、その正体を通して真のメッセージが暴かれる
考察を滔々と語るのは無粋だと思うので遠慮しておくけど、割と『ゲット・アウト』よりわかりやすいんじゃないかな

地下世界
ウサギ
異教の批判で知られる預言者エレミヤの書
ハンズ・アクロス・アメリカ
あちこちに点として示されるメタファーが線として繋がった時、そこに浮かび上がるものこそ真の恐怖と断言できる
ネタバレにならないよう表現するのならば、これは実に皮肉に完成されたアメリカ映画だ
ジョーダン・ピールの目に映る世界(アス)は容赦なく世界に刺さる
エイデン

エイデン