これは怖い。
子供が観るとトラウマになるレベルで怖い。
では、大人向けなのかというと、そこが判然としないところも何だか気持ち悪い。
ぜんたいに、映画というのは、とりわけハリウッド映画というのは、ヘイズコード撤廃から何十年経った現在でも、保守的で教条的なもので、特に若者向けのホラー映画は非常に説話的・訓話的なのですよ。
「いけないことをすると、罰が当たるよ」的な、因果応報物語がホラー映画の根元にある。
スラッシャー・ムービーでセックス・ドラッグ・ロックンロールな若者が順に殺され、おくての処女がファイナル・ガールになるパターンが多いのは、そういうことです。
その意味で本作が怖いのは、そういう因果がまったくない人物に理不尽な災厄が襲い掛かるところ。
もう、「たまたま」以外なんでもない。「呪怨」と同じ構造なんですね。
さらにショッキングなのは、課せられた問題が解決せずに物語が終わること。
人体の欠損・損壊(本作ではむしろメタモルフォーゼだけれど)が不可逆なものとして描かれること(関係ないけど、ミスター・ジングルスを思い出しますよね)。
これは、子供にとってはトラウマですよ。
俺、つくづく「こんな映画が子供の頃になくってよかった」と思いましたよ。
とはいえ、やっぱり子供向けに設計されてるんだなあ、と感じたのはストーリーの運び。
ツイストがほとんどないんですよね。
小さな「ピンチ→解決」がたくさんあるんだけれど、すべて当初の設定どおりに解決していく。
せっかくの「ネコとネズミ」なんだから、あのネコさんも中盤でもっと活躍させられたのになあ。
あれ、わざとシンプルにするためにケージなんか持ち出してますよね。
まあ、何よりも問題は「相変わらずのゼメキス節」ってとこですかね。
つまりは、「黒人差別なんかなかったよ」映画。
1969年のアラバマであれはないでしょう。申し訳程度に、ホテルの黒人ドアマンが「えっ、この黒人、こんな高級ホテルに宿泊するんだ」というリアクションを取りますが、そこだけ。
ゼメキスって、やっぱりグリフィスなみのレイシストじゃないのかなあ……。
ともあれ、面白い映画なのは間違いないので、一見の価値はあります。
アン・ハザウェイの極端な訛りも楽しいし、なにしろ実質的な主役がオクタヴィア・スペンサーなので、彼女のチャーミングな振る舞いを堪能できます。
私なんか、序盤の「Reach Out I'll Be There」で号泣しちゃいましたからね!