ベべべっち

窮鼠はチーズの夢を見るのベべべっちのレビュー・感想・評価

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)
4.1
男が観に行って何が悪い😢

仕事終わりの映画館。
開場を平常心で待とうとする自分。
見渡す限り人はそれほど多くないが、男は一人もいない。
でも、それは想定の範囲内のこと。
これぐらいの事で動じてはならないと自分に言い聞かせる。
ここまで覚悟を決めてきたではないかと。

劇場スタッフさんの「お待たせ致しました。ただ今より開場致しまーす。」
という声が聞こえた瞬間、真っ先に入場しようとするおばさん。それを弾き飛ばす勢いで自分が一番に入る。
周囲の女性に気合いの表れを見せつける。
心待ちにしていた作品なんだ!!と無言でアピールする。

スクリーンがとても見やすいほぼド真ん中の席を陣取り、ドヤ顔で座る。
次々に客が入ってくる。男は誰も入ってこない。
座席数の割には予約の数が少なかったので仕方ないのかもしれない。

ふと、左の方から気配を感じる。
制服姿のままの女子高生二人組がこちらに近づいてきていた。
まさかの自分の隣(コロナ対策で一席飛ばし)まで来る。
他にも席が空いているのに隣に来るのか!?
と、内心ではかなり焦るが、顔には出さない。
女子高生の方もこちらを見て一瞬固まる。
「なんだ?男がいちゃいけないのか?」という視線を女子高生に飛ばす。

本編が始まる。

序盤から大倉くんに迫る成田凌。
「キスだけって言っただろ」
と大倉くんは成田凌を突き放すが、下着を脱がされても大して抵抗はしない。

視界の右隅の方に座っているおば様二人組の方から「キャッ♡」という黄色…もとい茶色い声が聞こえる。
左の方からは女子高生が生唾を飲む音がする。
己の心臓の鼓動が確実に速くなっているのを感じたが、これしきのことでは絶対に動じないと今一度自分に言い聞かす。
意地でも生唾を飲むまい!という謎のプライドを確認する。

スクリーンでは大倉くんが元カノか成田凌かの選択を迫られている。
「お前を選ぶ訳にはいかない」
と、カッコよく成田凌に言い放ち、元カノと店をあとにする大倉くん。

右隅のおば様からはため息が漏れる。
俺は何故か安堵する。

スクリーンでは大倉くんが元カノに呆れられている。
もはや、女に対しては下半身が反応しない身体になってしまっていた大倉くん。

劇場内の女性のテンションが静かに上がっていくのを肌で感じる。

スクリーンではついに大倉くんと成田凌が結ばれる。

斜め後方から「あ♡」という若い女性の声。

スクリーンでは大倉くんの透き通るような純白のケツが露わになる。

視界の右隅から再び「キャッ♡」という茶色い声。

スクリーンでは成田凌のほどよいプリケツが大倉くんに献上される。

生唾を飲みながら、右隣に座っている唯一の男がどんな反応をしているのか、チラッと確認する女子高生。

呼吸が荒くなっているのを隣の女子高生に絶対にバレないようにする男。

スクリーンでは大倉くんが女性と結婚する。

自分を除いた観客に落胆したような空気が漂う。
その間に心臓を落ち着かせようとする男。

スクリーンでは大倉くんが成田凌と、あっという間にガンガン浮気する。

一旦下げられてからのご褒美にテンションが爆上がりの観客。
右隅から「キャッ♡」
後方から「あ♡」
左隣から視線。
ピクリとも動かない自分。

エンドロールが終わり場内が明るくなるまでの一瞬の間に、一人の男が劇場から姿を消した。