イチロヲ

紅閨夢のイチロヲのレビュー・感想・評価

紅閨夢(1964年製作の映画)
3.5
家族と一緒に東京観光を楽しむ中年男(茂山千之丞)が、ストリップ嬢(葵千代)と映画女優(柳美那)の艶姿に目が眩み、虚実不明瞭なトリップ状態へと陥ってしまう。谷崎潤一郎の短編2作品を併せている、エロティック・サスペンス。筆者は原作を読了済み。

取り上げられているのは「過酸化マンガン水の夢」「柳湯の事件」の2作品。両作とも、夢と現実がゴッチャになる系統のアシッド体験が描かれており、「幻覚体験の不思議」を谷崎流にまとめた作品に仕上がっている。

原作に忠実な映像化と言えるが、原作の2作品が「舞台劇と劇中劇(劇中映画)」に色分けされているため、リミックス感覚は極めて薄い。残念ながら、「そうきたか!」と膝を打つような脚色は施されていない。

全体的に、前衛作家の映像世界をまったりと眺めるための作品、という印象。「舞台と映画の境界線」を揺り動かしながら、鑑賞者を倒錯状態へと陥れてくる手法が面白い。
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