キナ

ピアッシングのキナのネタバレレビュー・内容・結末

ピアッシング(2018年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

やるしかないだろ。殺せばいいだろ。

飲み込まれるような吸引力はないものの、予想外の連続で常に目が離せずドキドキしながら観られた。
目が回るほどドラッギーだけど抑えめでスマートで、洗練と混沌が入り混じったような表現が面白い。

初めての実行の前には必ず予行練習を。
稚拙で素人腕なパントマイムと、それに合わせた効果音の演出が巧い。
想像力が刺激され、その手の先に吹き出す血液や濁った目を持つ女の首が見えるようだった。

殺人衝動を持つリードと、自殺(自傷)衝動を持つジャッキー。
二人の欲望の形は合致するはずなのに、どうしてこうも上手くいかないのか。
反撃され逆にやられても、それはそれで悪くないかもしれないと言いつつ、想像に易い目先の苦しみからは咄嗟に逃げてしまうもの。

二つの狂気がマウントを取り合い押し引きし合う様、焦らし焦らしの感覚と秀逸なラストにニヤリとしてしまう。
双方のやりたいことを把握した上での先伸ばしや牽制、傷付け合いなんてそれはもうただのイチャイチャじゃないの。

ずっとそうしていればいい。
家で待つ妻子だとか仕事だとか警察だとか医者だとか、そういう現実的なあれこれは全部全部頭から放り出して。
小休止を挟みながら少しずつ身体を痛めつけ合ってジワジワと弱って息絶えればいい。
お似合いすぎる二人の今後に想いを馳せてキュンキュンしてしまう。

フラッシュバック的な幻覚から全てを読み解くのは難しい。何となく拾えるものはあれど。
おそらくリードは幼い頃母親から暴力を受けていて、それにより痛みを断つことが出来ているんだと思った。
「痛くないと思えば良い」と。

ウサギを刺していた少女は誰だろう。
ジャッキーに顔が似ている気がしたけど、彼女の過去ならそれをリードが知っているのは変なのか。
それとも幼い頃二人は知らずに遭遇していたとかだったら胸熱だな。

母親に重ねていたらしきモナの存在も謎。
「前に殺した」という言葉とあの映像での出来事をそのまま受け取っても良いものなのか。
母親も娼婦だったのかもしれない。

突然グロテスクなモノが出てくると興奮する。
触手ピロピロの虫、悪臭漂う汚水、謎の粘液、傷口に蠢く何か。もうそういうの大好き。
ただのサイコスリラーではなかなか味わえないグチャグチャモゾモゾした感覚がクセになる。

金髪ボブとスレンダーながらも下半身がムチッとしてるのがめちゃくちゃ可愛い娼婦ジャッキー。
彼女の心の内が全く読めないのが地味に恐怖。
眉を顰めたり含みすら感じる笑顔だったり、コロコロ変わる表情の奥に虚ろな穴があって、何がしたいのか何をしているのかわからない怖さがあった。
二人の会話がたまに全然噛み合っていないの面白い。

集合住宅のモチーフがとても好き。
無数に並ぶ住まいの部屋の内、それぞれとある一室で起きた物事。
普通に生きている人でも、奥底に抱える狂気や後ろ暗い欲望は誰しもが持つものでしょう。
明らかに異常事態の連続ではあるけど、どこか普遍的で当たり前のような印象も受ける。

現代的なのにレトロな雰囲気も流れていて、時代設定をぼやかしたようなモダンな見せ方も良かった。
肌を伝うアイスピックの針先の感覚はもっともっと欲しいところ。
物語は面白かったけど、期待していた痛みをもっと強くジワジワと慢性的に感じたかった。
キナ

キナ