あやっぺ

グレース・オブ・ゴッド 告発の時のあやっぺのレビュー・感想・評価

3.8
オンライン試写会で視聴。

聖職者による児童への性的虐待を題材にした映画はアカデミー賞作品賞を受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」が記憶に新しいが、今作は記者達ではなくかつて虐待を受けた当事者達による告発と戦いの物語である。
前述したスポットライトだが、あれが2002年の話であるのに対し、今作は初めにプレナ神父を告発した男性がそのキッカケをもったのが2014年の事。カトリック教会に対する衝撃的なスクープが世界に発信されてから12年後である。それだけの年月が経っていながら、いまだに多くの子供達を餌食にしてきたプレナ神父は聖職者であり信者や子供達と接し続けていたし、教会はそれを許していたのである。

本作のタイトル、原題は「Grâce à Dieu(英題だとBy the Grace of God)」=「神の恩恵により」であるが、多くの子供達を加害し心に深い傷も負わせその後の人生や彼らの信仰に対し大きな苦しみを与えた話なのに何が神の恩恵なのだろうと思っていたのだが、これまた作中の意外な所でこのタイトルの意味が分かる。驚くほどの傲慢で醜悪な使われ方で。

教会側はプレナ神父の最初の告発者の男性に対してとても丁寧に仲介者を通して話を聞き(これがきっちりと時間をかけて生々しくシーンを使っている)、そのような性的虐待など許されないと同調した様子を見せつつも、実際にはプレナ神父の処分などは何もしない。被害者と加害者を直接対談させる機会を設けたがこれは被害男性の意を汲んだような体をして、実際にはプレナ神父に対して仲介者は「お会いしてくださるのは被害男性の癒しの助けになる」「ご対応に感謝します」とか、加害者への扱いとしておかしいのでは?とココで既に引っ掛かりを覚える。その両者+仲介者の対談でももう違和感や信じられない話が出てくるのだが・・・とにかく教会側の対応はおかしい。これといった信仰を持ってない私にとって、宗教を通しているからって犯罪に対してこれほど異常な対応の仕方はあるのだろうかと不思議で仕方ない。

このように全編にわたって、カトリック教会という長い歴史ある巨大な組織の驕りと怠慢に憤りを感じた。

プレナ神父の異常さといまだに自浄作用があまり働いていないカトリック教会の体制に対する批判もこの作品にはあるのだろうが、それだけが主題ではない。
このプレナ神父を最初に告発した被害男性とその後に声を上げる2人の被害男性の計3人がこの映画の主な主人公達だが、その3人も他の多くの被害者達も声を上げるのに何十年と時間がかかったしそれには大人になった今ですら勇気がいることだった。被害のせいで人生を滅茶苦茶にされた人々もいた。このように苦しんだ人々がこの告発をキッカケに連帯し仲間がいることで、また一丸となって戦ってくれる家族達の支えがあったことで少しでも癒しがあったことが、皮肉だが「神の恩恵」と言えなくもない・・・

映画は全体としては被害者達が長年怒りと苦しみを抱えて静かに耐えてきたように、抑え目な作風である。しかし実話をもとにしているということで衝撃は十分にあり(エンドロールに出たその後の公判についても)、同時に被害者達が勇気を出した戦いが報われてほしいと祈る気持ちでいっぱいになった。
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