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赤い闇 スターリンの冷たい大地でのShinMakitaのレビュー・感想・評価

2.2

1933年、ロンドン。元首相ロイド・ジョージの政治顧問として雇われていた青年記者ガレス・ジョーンズは、ヒトラーへの単独インタビューを成功させ、次はスターリンへの取材を行おうと考えていた。世界的恐慌の中で、農業も工業も近代化が目覚ましいというソ連。その発展の秘訣は何か? …これを訊いてみたかったのだ。しかし予算削減のあおりで、ガレスはロイド・ジョージの事務所をクビになってしまう。だがこのままで気がすまない彼は、身銭を切って単身モスクワに飛んでしまうのだった。現地の記者クラブはニューヨークタイムスのピューリッツァー賞記者デュランティが仕切っているし、友人のフリー記者ポールもいる。2人に頼めばスターリンに面会するのも可能なはず…と考えていたガレスだが、到着早々、ポールが非業の死を遂げていることを告げられショックを受ける。しかもデュランティはソ連政府のスポークスマンと化しており、ろくに取材もしていなかった。外国人記者はモスクワの外に出ることを禁じられ、一般市民の取材なども出来ない有様だったのだ。落胆したガレスだったが、死んだポールが密かにウクライナへの取材を計画し、それが元で当局に消されたという話を耳にする。五カ年計画・コルホーズの大成功例としてしばしば話題になるウクライナ。そこにこそソ連経済成功の鍵があると考えたガレスは、巧みに政府要人を騙してウクライナに潜入することに。そこで彼が見たものとは…


「赤い闇」。
社会派のポーランド人、アグニェシュカ・ホラント監督の作品。

以下、スターリンの冷たいネタバレで。

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映画ってのは、学校では教えてくれない歴史…年号やキーワードや人名の羅列ではない歴史を教えてくれます。

本作はホロドモール、いわゆるウクライナ大飢饉をテーマにした作品。世界史に疎くてなんちゃって私立理系の俺は学校で習った記憶が無いんだが、これ常識? 実はある作品で知ってはいたんだけど、どういう状況だったのかはいまいちピンときてなかったんだよね。その作品は「チャイルド44」。舞台は1950年代だけど、主人公のレオが、ホロドモールの生き残りという設定でした。

チャイルド44 日記
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1943926749&owner_id=2940502


このホロドモールの現実を、1人の無名なイギリス人が体験し世に知らしめたという話です。ソ連がひた隠しにした国家的犯罪…平等主義の名の下、農地・穀物を強制的に徴収し、現地の住人たちを人為的に餓死させたという事件のリアルが、ガレスの記事で明らかになったのです。このガレスの記事が出るまでの紆余曲折がまた劇的で、終盤の大逆転は実に映画的。本作のもう一つのテーマは、ジャーナリズムの在り方というやつだと思うんだよね。真実こそ正義なのか、真実を伝えず国益を優先させることが正義なのか。ガレスとデュランティの対比が後半の見どころです。


ウクライナの子供たちが歌っていた残酷なあの唄が、鑑賞後も耳に残ります。無知な人間ほどハッとさせられる、価値ある一本。
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