GreenT

スキャンダルのGreenTのレビュー・感想・評価

スキャンダル(2019年製作の映画)
4.0
この映画が2020年のアカデミー賞取ればよかったのに!って思いました。社会派の内容、オールスター・キャスト、堅実でスケールの大きい話運びは、まさに「王道ハリウッド映画」って感じだと思うんだけど。

セクハラの描き方も、現実的だし様々な角度から描いていて、オリジナルのタイトルだった "Fair and Balanced" そのものだなと思いました。

セクハラにも色々あって、グレッチェンのように人前でおちょくられたり、年齢のことを言われるものもあるし、メガンのように駆け出しの頃、性的にセクハラされても「昔のことだよな」的にされるケースもあるし、ケイラのように、まだ若くて何もわからないままあれよあれよという間に魔の手にハマるケースもある。

セクハラしているロジャーの秘書をしているおばさん、あの人、なにが起こっているのかわかっているくせに、止めない!って思ったんだけど、彼女はきっと、「あんな昇り詰めていく女たちはセクハラ覚悟なんだ」って思ってるんだな、って思った。だって、自分は秘書って立場で満足している人だし、ケイラは自分からロジャーに会いたい!ってついてくるんだもん。「わかってやってるんだろう」と思っているか、訊かれもしないのに「ロジャーは危ないわよ」なんて言ったら自分がクビになりかねない。

ロジャーの奥さんも、自分の旦那が職場で若い女の子たちを食い物にしているのに、「私はロジャーの性的なジョークとかを面白いと思うけど、そういう私が彼の態度を助長しちゃったかしら?ごめんなさいね」みたいなことを言う。この人は奥さんとしてロジャーの「女性蔑視」的な側面を経験しているんだけど、もうそういうもんだからしょうがない、って無意識に自分の感情に蓋をしちゃってるんだと思った。

こういう、「女の敵は女」というか、女性差別的なのは実は女の方、って側面を描いているのが「お!」って思った。

一緒に働いている男性たちは、自分はそんなことしないし、セクハラひどいと思うけど、職を失うのは怖いから、腰が引けてしまう。

そう考えると、やっぱセクハラってパワハラなんだよな。私はこの映画を観て、"misoginy" の意味が良くわかった。邦訳では「女性嫌悪」と訳されることが多いんだけど、「女性蔑視」ではないかと思った。ロジャーみたいな人は、女が実力だけで男より出世できるってことを認めたくないんじゃないかなあ。若くてきれいな女にオフェラしてもらいたいとか、そういうのもあるにはあるんだろうけど、それよりも、女の成功に何か少しでも汚点を残したいのでは?

主人公の3人の女も、上昇志向なのには間違いない。上司に気に入られて、成功したいと思っている。だけど、セックスを使ってのし上がろうなんて思っていない。だって、ずーっと性の対象として見られてきて「私の存在価値は性だけではない。自分は能力があるんだ」ってことを証明したいんだもん。

ロジャーを演じるジョン・リスゴーがすごかった。最初、「誰?これ?なんか知ってる気がするけど」って全然わからなかった。ウィンストン・チャーチルをやったKazu Hiroがまたメイクアップでアカデミー賞取ったけど、チャーチルの時は、ゲイリー・オールドマンも主演男優賞獲ったよね?私はこのジョン・リスゴーの方がすごいと思う。まあ、これだと助演男優賞になっちゃうから、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブラピに負けるかとは思うが、ブラピはゴールデン・グローブ取ってるから、アカデミーはこの人でも良かったんじゃない?つか、ノミネートすらされてない!!

助演女優賞も、ローラ・ダーンだったらマーゴット・ロビーの方が全然いいよな。無垢な新人から、セクハラを受け入れてしまってどんどん暗くなっていくところがとても良かった。

それに主演女優賞!!他の映画観てないのがあるからなんとも言えないけど、レネー・ゼルウイガーにやるくらいだったら、シャーリーズの方が全然すごいだろうよ!

この映画も『ハスラーズ』もイマイチ話題にならないこと自体がやっぱ女性はマイノリティなんだなあと思わされる。どちらの映画も、アカデミーにノミネートされたどの映画より「おお!」って思わされる素晴らしい映画だった。もちろんマイナス点も色々あるけど、それはノミネートされた作品だって同じだし。だけど『ハスラーズ』もこの映画も、プロダクションの作り込み具合とか、役者魂がビンビン伝わってくるパンチのある映画なのに、こういうのを評価しないってのはな~。
GreenT

GreenT