九月

ラストナイト・イン・ソーホーの九月のレビュー・感想・評価

4.2
一筋縄ではいかないのだろうな、と観る前から思ってはいたけれど、それでも想像以上だった。様々な要素が盛り込まれ、ストーリーが幾重にも重なって展開していく。
普段ホラーというジャンルを全く観ないけれど、私が思い浮かべるようなホラーとは全く違って、映像やファッションなどの華やかさもあり見やすかった。でもしっかり怖い。一番怖いのはお化けや亡霊ではなくて、人間だった。

冒頭、エロイーズが新聞紙で作ったドレスを身に纏い、女優になりきって演技をしている始まり方に、ワクワクさせられる。
オードリー・ヘプバーンになりきる彼女は少し昔、60年代くらいの映画や音楽が好きらしい。
ロンドンの学校に合格し、憧れの街でファッションを学ぶことが決まった彼女はとても生き生きしていて、この先明るい未来が待っているようにしか思えなかった。

しかし、現代のロンドンでは田舎からやってきた古くさい趣味嗜好を持つ女の子は奇異の目で見られ、同級生たちとうまく馴染めない。この辺りの描き方がやけにリアルで、本題に入る前から結構辛くなってしまった。大学に入ったばかりの頃って、ちょっと悪い方がかっこいい、とか遊んでる方が偉い、みたいな変な風潮があったようなことをなんとなく思い出した。
エロイーズは学生寮のルームメイトから逃げるようにして、古いアパートで一人暮らしを始めることになるが、そこから大きく物語が動き出す。
エロイーズとサンディがどんどんシンクロして、夢と現実、過去と現在が入り乱れていく。

ずっと恐怖感があるのに、映像美やクラシカルな雰囲気の演出に目を引かれ、見ていられないような出来事からも目を逸らすことができない、不思議な感覚だった。
トーマシン・マッケンジーとアニャ・テイラー=ジョイの、それぞれ異なる危うげな可愛さもとっても良かった。

ラストの展開も何度か捻りがあるもので、見応えがあった。ここ最近、こういった題材を内容ほどは重く見えないように描いているものや映画らしい切り口で描いている作品をよく観た気がする。どれも観た人に委ねられるようなずしんとくる終わり方だったものの、この映画はまた一味違って、結構好きな終わり方だった。

ジョンの本心はどこにあるのか?ということに途中までハラハラしてしまったけれど、疑ってしまった自分が恥ずかしくなるくらい。彼の存在に救われた。
九月

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