Automne

ラストナイト・イン・ソーホーのAutomneのレビュー・感想・評価

4.2
エドガー・ライト最新作。こんなにポップなホラー映画は見たことない。終盤、手がいっぱい出てきたり、申し訳程度のホラー要素には笑っちゃったけど、プレイリスト映画として良質な出来。

シナリオに関しても、実はめちゃくちゃホラー映画の文脈に則っていて優等生。
大抵どこかの別荘に行って“何か恐ろしいもの”に遭遇したりする感じ、本作ではロンドンに来たばかりの女の子が「引っ越し」を通じて幻覚を見るようになり、再び家を離れるまでを描くのだが、幽霊が歴史に付随して出現する感じや輪廻感含め、意外と王道のホラー。

夢と現実が混ざっていく感じは『パーフェクトブルー』感あるし、サンディとエロイーズの対応関係にはちょっと「ヒカルの碁」味があった。とりあえずポップ。
化けて出てくるのがお母さんではなくサンディであるというずらし方もめちゃくちゃ現代的。

アニャ・テイラー=ジョイが演じるサンディ可愛い。ビジュアルは完全にお水の女の子でピンクとブロンド『パリ、テキサス』のオマージュ(鏡もたくさん出てきます)。

ホラー映画を描くときに、大体が犯人が精神疾患だったりキ◯ガイだったりするという終着点に対してやっぱりやや疑問を感じたりするのだけれど、本作に関しては主人公に精神疾患の特性(日本でいう“見えちゃう人”)を付与することで、「関係ないのに体験してしまう」という、最も受け手に共感されやすい第三者をつくりだすことができてすごいと思った。現代らしさが出てる。

“怖いもの”として描かれるのが“擦り寄ってくる男性性”というもので、抑圧され続けている女性の文脈にのったフェミニズム映画でもあったりする。『ワンダーウーマン』的な“抑圧された女性が最強の力で逆襲する”というところからまた時代は一歩進んで、“逆襲した女性”がカルマ(業)となって、さまざまな事象が発生する。すなわち映画の中で1番の悪者をあげたら、昔に水商売してたことで男性に恨みを感じて殺してしまったおばあちゃんの方なのである。『ドライブ・マイ・カー』もその文脈にのってたけど、強すぎるフェミニズムに対してのリベラル的提示の仕方はとても現代的である。

けれどfilmarksの評価をみていて、意外とみんな評価低かったのにびっくり。
おそらく現代の世界の流れやそれまでの歴史を踏襲していないと、その意味するところや良さが伝わりづらいのかもしれない。
たぶんそれらが分からなくてもなんとなく「良くね?」ってなるようなポップさや上手さがあるのがエドガー・ライトの良いところだと個人的には思う。
けれども本作に関しては、そこだけ受け取ったひとには上すべりしているように見えるのかもしれない。
黒人クラスメイトと結ばれるところとか、殺さないと言ってて男を恨んでたはずのおばあちゃんが主人公の女を殺しにくる動機や誘因が微妙。その辺は雰囲気雰囲気、って感じで流しちゃったけど…。

たしかにそう考えると“作家性が出ている”というよりも、“優等生的巧さ”のある映画でしかなかったっちゃなかった。(天才じゃなくて秀才)
もっともっと鋭い映画つくれるはずのエドガー・ライトが、こんなに丸く収めたホラー映画をつくること自体が大きな皮肉でナンセンスなのかもしれない(エドガー・ライトの水準であってもそれら多くの制約をクリアしなければならないという点で)。

本来ならば、そういった文脈無視して鑑賞したいし、作品づくりもそのようにされるべきであると思う。けれど現代のものづくりには“作品外の制約”があまりにも多すぎる。

つくり手のひとりとしては、めちゃくちゃ“上手く”できた物語であると思ったし、エドガー・ライトにはこれからも頑張って欲しい。
秀作です。
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