むさじー

シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

<宮殿造りに捧げた頑固な男の人生>

フランスの重要建造物に指定され、観光地になった「シュヴァルの理想宮」は、郵便配達員の手で33年をかけて建造された。
そのきっかけが面白い。
石につまずき掘り起こしてみると、そろばん玉が重なったような奇妙な形をしていて、カンボジアのアンコールワットがひらめき、娘のための宮殿を造ることに。
その基礎になるのは、趣味である異国の絵ハガキなどから得た多様な文化、山村を歩く仕事で得た自然からの学びで、それに娘が願うであろうおとぎの国が加わり、奇抜な空想めいた世界になっている。
特に建築知識を有するわけでもない主人公が、これだけ強固で美しい建造物を作ったということは、それなりの潜在能力と学習努力があってのことなのだろう。
宮殿に刻んだ言葉「目標を成し遂げるには頑固であれ」、然り。
フランスの田舎の風景が美しく、徐々に形作られていく宮殿の映像も見事である。
当初、凄いセットを作ったものだと感嘆したが、後に現存する理想宮で撮影し、建設途中の場面はCGで部分消去したことを知り、納得した。
物語は、無口で偏屈で不器用な男が、娘のため、自分の夢の実現のために取り組んだライフワークと、それを支える夫婦愛、家族愛が美しく描かれる。
男には狂気にも似た一途な情熱が宿り、妻にはそれを支える強い意志が見える。
何より二人の静かに秘めた愛が感動を呼ぶ。
ただ、娘、息子、妻と次々に亡くす主人公の悲哀、傍には狂気にしか見えない男の執念や生き様、それらがあまりに淡々と描かれていて、ドラマとしてはやや物足りなさも感じた。
とはいえ、人も風景も素朴で美しい、静かな感動作であることに違いはない。
むさじー

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