にしやん

命みじかし、恋せよ乙女のにしやんのレビュー・感想・評価

命みじかし、恋せよ乙女(2019年製作の映画)
2.0
2019年秋に惜しまれつつもこの世を去った女優樹木希林の遺作やな。主人公の孤独なドイツ人男性と彼のもとに現れた謎の日本人女性の人生を再生するための旅と、次第に明かされていく真実を描くサイコホラーもんってとこかいな。

タイトルの「命みじかし、恋せよ乙女」っていうんは、何てことはない、黒澤の名作「生きる」で主役の志村喬が公園でブランコに揺られて歌てたあの有名な歌の歌詞や。本作の監督のドーリス・デリエって人やけど、日本に対して結構思い入れが強いみたいで、黒澤や小津に対するリスペクトも相当なもんやな。 黒澤の「生きる」の完全にオマージュやなってシーンもあったし、ラストの旅館かて小津の定宿やったみたいやしな。ここまでくるとマニアに近いわ。それとこの監督、日本に関係する映画を何本か撮ってて、本作はその中の一本の2008年にドイツで公開された「HANAMI」っちゅう作品の完全に続編みたいや。せやから、前作の「HANAMI」を分からんと、本作観て訳が分からへんとこが結構あったわ。

テーマは「マチズモからの解放」ってとこかいな。主人公の父親がマチズモの象徴としてどうも描かれてるみたいで、主人公を抑圧し続けるんや。片や母親と謎の日本人女性が女性の性の象徴にってことなんかいな。映画の始まりからおよそ三分の二くらいが主人公の心的分裂状態の描写になってて、大したストーリーがある訳ではなく、それ自体がおもろいもんやないし、正直途中で飽きてくるわ。とにかく全体的に観念的、抽象的、且つスピリチュアルや。何が現実で何が空想なんかの境目も曖昧やし。こういうんが苦手な人には苦痛でしかないやろ。

多分この監督は、ドイツを「男性の性」的なもんに見立てて、その対極として日本を「女性の性」的なもんにも見立ててんのかな。この映画の原題の訳は、ズバリ「桜と悪魔」やしな。まあ、監督の勝手な思い込みやろから、しゃあないかもしれんけど、日本を「女性の性」の象徴って、わしら日本人にはあんまりピンとこうへんわ。なんでやねん?ちゅう感じやな。ヨーロッパから見たら日本ってそう見えるんかいな。よう分からんわ。

樹木希林が亡くなる2か月前に撮影したそうや。演技のほうは見事なもんや。演技というよりも彼女そのもんって感じやったわ。黒澤の「生きる」の志村喬となんかダブったりもしてるな。せやけど、多分この映画樹木希林が出てへんかったら多分日本で公開せえかったんとちゃうか。出番かて最後の15分しかあれへんし、まず、そこまで睡魔と戦いながら辿り着くんが大変やわ。劇場は殆ど年配の人等で結構埋まってたけど、途中殆ど寝てたんとちゃうかな。わしの両隣のオッサンは冒頭5分くらいからラストまで完全に寝とったわ。樹木希林かて観れてへんのとちゃう?

名女優、樹木希林の遺作が、このトンデモ(?)映画やなんてちょっと気の毒な気ぃがしたな。それから、この邦題やけど商業的にとはいえ、なんぼなんでもないんとちゃう?ほんまは1.0点にしたいとこやけど、樹木希林さんに敬意を表して+1.0点や。 

樹木希林さんへ、合掌。
にしやん

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