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空の青さを知る人よのHrtのレビュー・感想・評価

空の青さを知る人よ(2019年製作の映画)
4.1
『あの花』『ここさけ』に続く超平和バスターズ作品であり秩父三部作と位置づけられた『空青』。
前2作と違うのは高校生が主人公でありながらそのストーリーは歳を重ねた大人同士の関係性を描くところだ。
その丁寧な感情表現には定評があるが、本作は自分のようなアラサーの人間にこそ刺さると思う。
一般的には身を固める時期に差し掛かっても過去と現在に囚われ主人公感も薄れていく焦燥感に苛まれる慎之介にはそれが顕著に表れている。
都会で思いどおりにならなかった者の現実と田舎の閉鎖的環境で生きる者の現実が描かれているのはドラマにリアリティと普遍性を持たせていてとても感情移入できる。

相生あかねについて特に思考をめぐらせた。
高校生の頃に両親を亡くして以来自立を余儀なくされ希望進路を諦め地元に就職して妹を育ててきた悲劇のヒロインのレッテルがべったりと貼られあかね本人も半ば受け入れているように見える。
が、環境ゆえに主体性が無いものとされることにははっきり拒否感を示す。
要は、「妹のせいでこんな現状に甘んじている」という周囲の目だ。
そうした環境は自らが望んだことではないと「勝手に」周りやあおいから思われている。
そしてそれはあおいの都会へ出たい理由の一つにもなっていた。
小さなミスコミュニケーションがずっとその後の空気感を形成しているのだ。
それに対するカンフル剤としての慎之介としんの。
結局あかねとあおいがお互いに胸の内をさらすシーンは無い。
その代わりに慎之介やしんのとのやり取りによって少しずつ変化していく2人。
慎之介と高校生の頃の感覚に戻って話せた後で1人涙を流すあかねを見ると、彼女は他の誰よりも深い情緒を持っていることが分かる。
ならば、本作のタイトルは明らかにあかねを指しているだろう。
あかねこそが空の青さを知っているんだと思った。
つまりはあおいや慎之介への愛の深さの形容なのではないか。
この意味で捉えた瞬間に思わず涙腺が緩んでしまった。

あいみょんの楽曲もキャラクター造形に忠実で寄り添えるものだった。
それ以前に曲としてとても良い。
できればエンドクレジットで表題曲の方を流して欲しかったが、空を飛行するシーンでかかるのは良い意味で裏切られた。
ただセリフに被せるのはもったいないと思う。

そうしたもの全部ひっくるめても決して途中で冷めさせることのないエモーショナルな作品だった。
町おこしイベントもあおいのミュージシャンとしての舞台も何一つ成功させないまま終わるところも潔い。
終盤で初めて姉のために行動したあおいの成長は既に描けていたし、その後のステージなんて蛇足にしかならないだろう。
シンプルな成長譚としても機能する本作の届く幅は『あの花』や『ここさけ』よりも広いと思う。
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