りっく

わたしは光をにぎっているのりっくのレビュー・感想・評価

わたしは光をにぎっている(2019年製作の映画)
4.4
本作はある少女の上京物語であり、ある種ジブリのヒロインを彷彿とさせるような銭湯という異世界での奮闘記である。ジブリと異なるのは、田舎から都会へと出てくる点だろうが、悪戦苦闘しながら特殊な仕事を徐々に覚え、周囲に幸せを届けてあげる姿は見ていて本当に心地が良い。

そこに佇む松本穂香が抜群にいい。どんな風景にも溶け込んでしまう透明感と、いい意味での主体性のなさ。そこでやりたいこと、ではなく、やれること、を積み上げていく。不器用で自己表現が苦手な彼女の歩調で一歩一歩前へ進み、観客も知らずのうちに彼女のペースに巻き込まれ、一挙手一投足に注目してしまう。

そんな松本穂香の自然体な演技に引き込まれるように、本作は終盤、フィクションからドキュメンタリーへとすーっと移行してみせる。そこで映し出されるのは、東京オリンピックを間近に控え、再開発の名のもとに閉店を余儀なくされたある商店街で生きてきた人々の顔と、その風景である。

映画は娯楽であるとともに、消えゆく一瞬を刻み込むメディアであり、記憶装置である。そんな映画の本質を、何の力みもなく圧倒的説得力を持って不意に語りかけ、感動が身体の内側に溶け込んでいく感覚に陥る。本作が醸し出すさりげなさは、なかなか真似できるものではない。
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