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ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビューのshinのレビュー・感想・評価

4.5
単なるバディものの青春ドラマかと思っていたら全然甘い、時代の最先端をいくすごい映画だった。

ザックリ乱暴なくくりかたをすると、本作のストーリーは青春ドラマの王道である、ある出来事をきっかけとして主人公が成長を遂げるというもの。

ブレックファストクラブをはじめとして、このジャンルはこれまで多数の作品があり、近年では大傑作ハーブオブイットもこの系譜に位置付けていいと思う。

そんなことが念頭にありながら、序盤を「知っている感じの映画だな〜」と見ていると、段々と明らかになる本作のスゴさにハッとさせられた。

まずビックリしたのは、学生の描き方が2020年代頭現在の社会的状況を反映した最新のものになっていることである。

主人公の1人であるエイミーはカムアウトをしているレズビアンであり、そのことを特に隠しているわけでも、周りから珍しい目で見られているわけでもない。友人たちにもゲイっぽいキャラの男の子がいて、登場人物たちのキャラクターがすごくカラフルである。
もう1人の主人公である、モリーも、言ったら少しぽっちゃり的な感じであるが、そのことを笑ったりバカにしたりするような程度の低い人間は1人も出てこない。

「なんとなく」マイノリティであることに対する偏見じみたことをリア充が言うのではないかとか、体型をバカにしたりするのではないかと、セクシャルマイノリティ=偏見の対象、痩せてはいないこと=ルッキズムの対象ということを念頭にある予想をしながら見ていたが、本作はそんな低いレベルはとっくに卒業している。

一種ユートピア的な表現であるのかもしれないけど、アップデートされた学生たちの描き方は、今、青春ドラマをやるならかくあるべしという表現を提示している点で、本作はこれからのスタンダードになるかもしれない。

また、本作に出てくるクラスメイトたちは揃いも揃ってみんなめちゃくちゃいい奴なのだ。
リア充どもはちゃらんぽらんでどうせロクなもんじゃねえぜって偏見をもっているのはむしろモリー達の方で、見下していた彼らは遊びに恋に勉強に大忙しの学校生活を謳歌していたステキ人間たちだったのだ。

ただ、そこでモリー達は変に自己嫌悪に陥ったり、自分たちのアイデンティティを失ったりはしない。(自分自身を卑下するようなことを言ったモリーに対して、エミリーが「私の親友を悪くいう奴は許さん!」とビンタを喰らわすシーンは最高!)

彼女たちは自分たちの得意なことやなりたい姿をかなり明確に理解している。
しばしばあった青春ドラマのパターンでは、登場人物たちには抑圧したキャラや夢があったり、自己肯定感が低かったりしている姿が描かれてきたと思うが、それと本作の2人は対照的だと思う。

逆に自分たちのことをよく理解し、しっかりしたアイデンティティがあるが故に、自分たちと異なる人たちを低く見てみたり、その眼差しを恐れてみたりしている。ただ、これってそういう事実があるわけでも何でもなくて相手のことを理解しようとしていないことから起こる残念な状況に過ぎない。

モリーたちは高校生活最後の夜を通し、他者を理解することによって、こんなにも豊かでイケてる世界に囲まれていたことを理解する。そして卒業式のスピーチ「大学行ってダサくならないでね!」に繋がる。

最新の登場人物たちの描き方、テーマ設定など、新しいレベルの到来を実感させる、本当に今作られるべき、そして今観るべき映画。

キャラはみんな魅力的だし、なによりも主人公2人の関係がめちゃかわいい。本当、お前らみんな最高だよ!
下ネタがエグくてまぁまぁ面食らったけど、途中から慣れます。

ここからは余談。

最近だと、ハーフオブイットが青春ドラマで1番面白かったけど、描かれている景色が大分違うなと感じた。

ブックスマートはLAが舞台で登場人物たちはみんなソフィスティケイトされていてすごくスマート。彼らが通っている高校もおそらく超高偏差値校で、みんなもって生まれてきているはず。画面もすごく鮮やかで楽しい色調に溢れている。

一方、ハーフオブイットは田舎町が舞台で、中国系のエリーに平気で差別的な言葉をぶつけるかっぺが集まっている。みんな将来どうするかという明確なビジョンもなく、自主的又はそういうものとして他律的に家業を継いだりしている。

ブックスマートでは中々描かれていないところだったが、現実には経済的状況や環境に恵まれず進学どころではないという人たちもたくさんいることが現実だ。
異なる描きかたをしている映画をいくつか観ると、各々の映画の表現していることの輪郭がくっきり見えて、立体的になっておもしろい!
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