イホウジン

初恋のイホウジンのレビュー・感想・評価

初恋(2020年製作の映画)
3.9
【コロナ前鑑賞映画】
ヤクザ映画の終わりと新時代の始まり

「孤狼の血」が「仁義なき戦い」等のヤクザ映画の本流のリメイクであるとすれば、今作は「セーラー服と機関銃」等のヤクザ映画の亜流のリメイクと解釈するのが良いだろう。本流側からすればヤクザ本体の魅力が落ちてしまうのかもしれないが、それ以外に強調する面があるので、結果的には本流とは別の意味での面白さが生まれている。
特に今作で重要なのは、ヤクザのキャラクターのしょうもなさと主人公カップルの力強さの対比の描写であろう。
結局のところ「孤狼の血」の舞台が80年代に留まってしまったのは、それ以降のヤクザに対して在りし日の男気や魅力を感じられなかったからであろう。その現れかのように、今作ではヤクザが軽薄な“グローバル化”を口にしたり小心者だけど小賢しい登場人物が幅を効かせたりしている。言ってしまえば、現代におけるヤクザ映画の系譜に終止符を打ったことになるのかもしれない。
そして、その弱々しさとは対照的な存在として主人公カップルが登場する。余命宣告を受けて生き死にがどうでもよくなって、でもその上で愛をもって守りたい対象が生まれる。その姿はまさに往年のヤクザ映画で描かれた“かっこいいヤクザ”のそれである。終盤のヤクザのドンと主人公カップルのやりとりはそれを証明するものであるはずだ。
この二者の対比に、ここ30年北野以外にヤクザ映画の名作を作れなかった原因を垣間見るし、逆にその上でこれからの時代はどんな“力”を人々が渇望するのかという問いも見出すことができる。
言わずもがなアクションは鮮烈で良い。サイケデリックな演出も相まって、人間の本性がむき出しになってる感覚はたまらない。世の中がどんどんクールになっている昨今、こういうアツい映画は貴重な栄養剤である。

最後の最後のオチが残念だった。アフターストーリーなのか分かるが、直前までのせっかくの緊張感が台無しになってる感じだった。あとチャイニーズマフィアのパートがやや蛇足だった。不要だったとは言わないが、少々映画のストーリーにとってノイズだったように思える。
イホウジン

イホウジン