あでぃくしょんBBA

幼い依頼人のあでぃくしょんBBAのネタバレレビュー・内容・結末

幼い依頼人(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

2023.01.24 配信で視聴

主人公が動き出すまで傍観者で居続けた、白々しい教師と児童保護センター職員。保育所にも幼稚園にも行ったことがないからか、お姉ちゃんにべったりの幼すぎる弟。
実母は早くに亡くなり、父親は子ども嫌い。その父親がやはり子ども嫌いの女性と再婚したことで姉弟に悲劇が襲う。

この映画の眼目は主人公の心境の変化と虐待死事件の真相究明なのだが、描かれた世界に入り込めない違和感が残った。

虐待被害者になったのは、実母はなくとも “父親がメンタルに深刻な障害を持つ女性と再婚さえしなければ、ヤングケアラーとして苦労はしてもそれ以上のことは起きなかっただろう” ひとり親家庭の姉と弟。
姉は他の子どもたちが当たり前のように持つスマホなどは買ってもらえず、弟は幼児教育を受ける機会を与えられていない(姉が学校から帰ってくるまで一人で家にいる)。この姉弟にとって、動物園もファストフード店も、主人公が現われるまで無縁の世界だった。
しかし、衣類や文具などに不自由している様子は見られず、専用のタンスや机のある子ども部屋が確保されている(=父親は精神的に未熟な無関心タイプだが、支給される子ども手当を自分のためだけに使ったり、性格異常者や一部の酒乱に観られるような加虐的性質を持っているわけではない)。
というわけで、ほとんどの咎(罪)は義母(父親の再婚相手)に向けられる。暴言暴行の主は彼女であり、暴行によって長男を死に至らしめたにもかかわらず、長女を脅して身代わりにした罪はさらに重い。なので判決は、法律構成上やむをえない範囲ではあるものの、被害児童2人の苦痛からすると充分ではない。
だが、それはそれとして、問題は裁判長が被告である彼女に向けて発した説諭部分である。

裁判長はしきりに“母性”という言葉を使った。
まるで、“母性の強調”が本作のもうひとつの主眼であるかのように
「あなたには母性がないのですか」
「子どもは母親に守られながら育つ」と。
この裁判長、女性なんだが身の回りに “子育て経験のある女性”がいないようだ。いたとしても、魔法にかかったが如く伝統的に“是”とされていることしか言わない女性ばかりのようだ。正直、「バカじゃね?」と思った。

ややこしくなるから、母性なるものが実在するか否かはさておく。
「子どもは母親に守られながら育つ」なら、父親は子どもを守らんでええんかいと思ったが、それもさておく。
六十余年しか生きてない私の浅い経験によれば、母親になっても本質的に子ども嫌いな人はたくさんいる。たとえ子ども嫌いでなくても、たいていの親は育てる過程で唸り、吠え、叫び、手が出てしまう。
お腹を痛めて産んだ我が子に対してすらそんなになるのに、自分が産んでもいない子どもを、「養育期の途中から」自分の子どもとして育てるのがどんなに大変か。ただ母性母性と繰り返したあの裁判長には想像力がないらしい。
彼女を説諭するなら、成育歴をふまえて成人としての反省を促すのが筋だろう。「刑期は、自分を見つめ直し罪を償うとともに、あなたがあなた自身を育て直す機会でもあります。我が国の司法と刑務機関はあなたの育ち直しを支援します」ぐらい言ったらどうか。

また、日本でも韓国でも起きている実際の児童虐待死事件に比べて、環境・状況の設定と描写がユルすぎるのも気になった。虐待死は、もっと荒んだ道程を辿るものなのだ。
あでぃくしょんBBA

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