真田ピロシキ

はちどりの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
3.6
なかなか主題を掴みあぐねていたが見てて悪い気持ちはせず濃い映画体験を過ごせた。フェミニズム映画のような文脈で紹介されていたのでそういう展開を想像していたが、家父長制の塊である父親や兄にしても映画の1要素で反撃を受けたら割と弱くてそういうものとガッツリ闘う事に重きを置かれているのではない。同性愛もわざわざ遠い病院まで見舞いに来る程だったのに、その後は「先輩が好きでした。でもそれは前学期の話です」と言われて終わり恋愛映画的に見ていると呆気に取られる結末。私はよく知らないけどこういう一時の感情は思春期の女子学生にはあるって聞く。彼氏との薄い交際と破局も所詮中学生の付き合い。ティーン向けのキラキラした漫画や映画のそれには舵を向ける素振りすらない。この恋愛に関しては主人公のウニもあまり好感を持てるものじゃなくて、彼氏が別の女と親しくして疎遠になったところで後輩に想いを寄せられ手を繋いで歩いていたのだけれど、そこに彼氏が復縁を求めてきたら受け入れてるので後で後輩から一方的に関係を終わらせられても人の事を言えた筋合いじゃない。別の学校に通う親友が言う通りこの子は結構自分勝手。しかしそういう優踏生でもなければ不良でもない所がこの特別だけど特別でない物語を描くのに必要だったと思わされる。

通ってた漢文塾に新しく入ったヨンジ先生は変わり者と思われている人だが教え子を一人の人間として見ており学校に馴染めないウニは惹かれていく。兄に殴られたウニに立ち向かう事を諭すように勉強以外の事を多く教えて、家族も友達も薄い交流の多いウニが誰よりも深い絆を結べているように見える。最初の授業で「何人心を知ってる人がいますか」と聞かれていてウニとヨンジ先生の交流は不本意かつ唐突に短く終わるのだが、そんな短い期間で恐らく心を知れたのは状況は大して変わっていなくてもラストの表情を見せたウニの成長に関わっている。そんなかけがえのない人生の宝物に出会える瞬間を切り抜いた青春映画として派手さはないが真実味があって、現在進行系で上手く行かない少年少女やかつての少年少女にも響くものがある。

映像も瑞々しい木々やほのかに暖かい夜道の街灯のようにその場の心情を感じられて良い。それと食卓シーンの多さも特徴的でほとんどは寒々しいが、一人だけ食べてるチヂミは暖かげ。家業で一家総動員して餅を作るシーンもあり食べ物の主張は強くて、眠るシーンも多かったように生活を強く感じさせる映画であった。