友人が観ていたことと、高い評価を受け、珍しくミニシアターから大手シネコンへの拡大上映が決まったことを知ったため、鑑賞。
[あらすじ]
1994年、韓国。
亭主関白な父を筆頭に、様々な問題を抱える家族と同居している少女・ウニ。
抑圧された日々へと反発するように、友達や恋人、彼女を慕う後輩と日常生活を送るウニのある数か月の物語。
[感想]
鑑賞直後の感想は「『自分の映画』ではなく、『彼女たちの映画』じゃん。」だったけれど、感想を整理していくうちに『自分の映画』へと変わっていく不思議な映画でした。
「美しくて脆いガラス」のように、存在し続けると思われた景色やモノ、人々が、突然、失われてしまうということ。
しかし、それでも世界は続いていくという紛れもない事実が、とても美しく描かれていたのが素晴らしかったです。
[体験談]
小さい頃、友達の家に行った帰り道、
夜の公園で母とはぐれて、迷子になったことがあります。
不安でたまらない気持ちの中、母を探した末に暗い夜道の中で、やっと、その後ろ姿をみつけた安心感。
しかし、何度も必死に、その名前を呼んでも、全く気づかれることはなかった時のどうしようもない不安。
実際には、その人物が母とは全くの別人で、後ですぐに合流したというオチが待っているのですが、なぜか、感想を整理していくうちに、この幼少期の記憶が蘇ってきました。
[少女の視点から見える世界]
本作では、少女・ウニのミニマムな視点から、彼女の生きる世界が描かれていきます。
主観を徹底して描くことで浮き彫りになる汚れた世界。
どことなく虚ろな彼女の姿を見ていると、自分の過去の経験でさえ、自然と思い返されてきました。
大切な人の余命を知った時とか、
他者がこちらとの心の距離を次第に離していることを自覚しながらも、そばにいるだけで幸せを感じてしまった瞬間とか。
けれど、たとえ未来に大きな喪失感を抱えたとしても、今この瞬間に感じる幸せを噛み締めていれば、深い悲しみも乗り越えることが出来るのではないか、と思っていたのも事実で……。
そんな複雑な感情が、映像として、物語として、映画の中に組み込まれていたことが純粋に嬉しかったです。
[他者との関係性の中で生きること]
人間は人と人との関わりの中で生きています。
そして、その中で、自分という存在を評価している。
だからこそ、どれだけ偉大で他者から認められている存在であっても、その積み重ねから自己嫌悪に陥ってしまったり、行き過ぎた結果、「死」を選択してしまうこともあるのではないでしょうか。
しかし、本作を見終わった後に思ったのは、それでも「生」に執着していたいなということ。
ラストシーンに登場したある人物のセリフと、ある人物の視線を観ていると、不思議と、そんな気持ちが心の中から浮かび上がってきました。
[最後に]
「相識 滿天下 知心能幾人。」
(お互いに顔を見知った相手は世の中にたくさんいても、心を知りあった相手は、はたして何人いるのだろうか。)
劇中に登場する漢文も印象的だった本作。
他者の気持ちを理解することは容易ではないけれど、そのことを受け入れた上で、自分の気持ちに正直でいることは出来るのではないか。
実際に行動するのは難しいですが、せめて、心の中だけでも、そうありたいなと考えさせられる特別な映画でした。
参考
韓国映画『はちどり』の魅力を様々な角度から考察する。|ヴィクトリー下村|note
https://note.com/shimomuudayo/n/nb7888f8434e3
(作品理解を深めるために、いくらか、感想を読んだ中でも、かなり目から鱗の内容でした……。)
2024/7/15 追記
#シリーズ:14歳という暗黒期 を追加しました。
2024/8/7 追記
#シリーズ:長編デビュー作 を追加しました!