サマセット7

ブラック・ウィドウのサマセット7のレビュー・感想・評価

ブラック・ウィドウ(2021年製作の映画)
3.9
MCU24作品目。
監督は「さよなら、アドルフ」「ベルリンシンドローム」のケイト・ショートランド。
主演は「ロストイントランスレーション」「ジョジョ・ラビット」のスカーレット・ヨハンソン。

米国オハイオ州にて、幼いナターシャ・ロマノフは優しい両親と可愛い妹と家族4人で幸せに暮らしていた。
ある日突然終わりが訪れるまでは…。
20数年後、とある事情から逃亡生活を続けるスーパースパイ・ブラックウィドウことナターシャ(スカヨハ)は謎の怪人の襲撃を受ける。
それはナターシャが自らの過去と向き合う旅路の始まりだった…。

アメコミヒーロー大河シリーズ・マーベルシネマティックユニバースの新章開幕を告げる作品。
コロナ禍の影響をもろに受け、フェーズ4の作品としては、ディズニープラスにて配信中のいくつかのドラマシリーズより遅れて、配信と同時公開となった。
MCU作品としては残念なことに日本では大手シネコンでの公開が見送られ、比較的小規模の劇場中心の公開となっている。

言わずと知れたアベンジャーズの初期メンバーの1人、ブラックウィドウの過去の因縁を描く。
スパイアクションのアメコミヒーロー版というべき作品となっている。
全世界にて公開直後だが、今のところ一般層を中心に、評判は悪くないようだ。

配信中の関連ドラマは未見。久々のMCUの劇場作品とあって楽しみにしていたが、期待に応える快作となっている。

今作の見どころは、初めて明かされるナターシャの過去エピソード、スカヨハやフローレンス・ピューの魅せる格闘アクション、新キャラクターたちとナターシャの軽妙なやりとり、そして今後のMCUへの繋がりにあろうか。

アイアンマン2での登場以来、シリーズで活躍を見せ、「アベンジャーズ/エンドゲーム」にてある大きな決断を下したナターシャだが、これまで彼女の内面に迫るエピソードは多くはなかった。
彼女はいかなる人物で、何のために戦っていたのか。
今作では「家族」という切り口でナターシャの過去を描き、観客に彼女の内面を提示する。
中でも重要な役割を担うのが、ナターシャの「妹」であり、自らも凄腕の暗殺者であるエレーナ(フローレンス・ピュー)。
姉妹の関係性の変化こそ、今作のストーリーの根幹である。

エレーナを演じるフローレンス・ピューは、「ミッドサマー」「ストーリーオブマイライフ」と印象的な作品で次々と主要キャストを務める実力派。
今作でも演技面の実力を発揮する上、さらにはスカヨハと並んで、目を見張るアクションも披露してくれる。
原作コミックでもYelena Belovaなる人物が登場するが、果たして…。

その他のキャラクターもいずれも魅力的。
キャプテンアメリカのライバルを自称する共産圏スーパーヒーロー・レッドガーディアンはコメディリリーフとして笑わせてくれる。
ヒーローの技をコピーする謎の怪人タスクマスターも、変身ヒーローぽい外見とキレのあるアクションが印象的だ。

MCUの中では超能力を持たず、頭脳と肉体を駆使して戦うナターシャの単独ものだけに、今作では人の肉体を駆使したアクションが楽しめる。
ナターシャやエレーナがクルクルと敵に飛び付き、華麗に引き倒す動作が頻出する。
このあたりはさすがMCU、という質の高さである。

ストーリーはサクサク進んで飽きさせない。
変にウェットにせず、カラッと過去を描いてみせる。
スパイアクションものとしては、もっと複雑だったり政治的だったりした方が好みだが、そこはアメコミヒーローもの。
スパイらしい騙し合いの描写は仕込まれており、これくらいのバランスがちょうどいいのかもしれない。
超能力が出てこないとはいえ、そこは流石のMCU作品。
最新技術を駆使したド迫力映像も楽しい。

加えるに、今作ではMCU過去作をネタにしたユーモアが随所に見られる。
特にエレーナの発言は辛辣で笑えるので注目したい。

今作のテーマは、家族の絆、といったところか。
中盤、ある家族が食卓を囲むシーンが印象的だ。
ナターシャの最終盤のセリフは象徴的である。
「家族」とは何か?
大切なのは何か?
そして、ナターシャ・ロマノフが切望し、守ろうとしたのは何だったのか。
過去作視聴済みの観客は、エンドゲームを振り返ると感慨深い。

エンドロール後に次作以降への繋ぎを見せるのは、いかにもMCU流。
今作でも大変気になる描写が仕込まれているので、くれぐれも、エンドロールで席を立ってはならない。

期待に過不足なく応えるMCUの模範的な快作。
ディズニープラスで配信中のワンダビジョン、ファルコン&ウィンターソルジャー、ロキや、その後のシリーズへの興味も駆られる。
肉体が3つくらいあればいいのに、と思いつつ、今日も、いつか必ず観る、と誓うのであった。