みかぽん

燃ゆる女の肖像のみかぽんのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.0
昔は写真でなく、肖像画がお見合い写真の代わりになっていたのね😲。で、画家(のマリアンヌ)はブルターニュの孤島に住む貴婦人から、結婚を拒む娘のエロイーズのそれを完成させるべく、表向きには彼女のお散歩係として雇われるわけ。

限られた日数、しかも秘密裏に仕上げなくてはならないのだから、マリアンヌは彼女をチラ見目線で隅々くまなく観察しなくてはならない。
でもさぁ、誰かにじぃっと見られると、見られる側はそれが不快でなければイコール相手に好感を持っているわけで、それと同時に、何で見つめるの?と心が揺らぎ始めるなんてことは、長い人生にはあったりしますよね、日常の中でも。

かくしてこっそり技で描いた肖像画は完成するのだけど、画家は、姑息技で相手を欺き、そのまま去るような行動に耐えられず、雇い主の母親に承諾を得て彼女に事実を告げるわけ。
てか、わざわざそんな事をしなくても、お金を貰ってサクっと去ることだって出来たはずなのに。しかしそう出来ないのは、好意を持った相手に対し誠実でありたいと思う至極真っ当な感情以外の何物でもなく。
これに対し、エロイーズは努めて冷静に、この絵は私じゃない。本当の私が描けるのなら、それを受けましょうと返すわけ。
そう告げられた画家は、衝動的に生乾きの〝ザ・お見合い写真風肖像画=柔らかな万人受け笑顔〟を布でががっと拭い取ってしまう。
激怒して画家にクビを言い渡す女主人。
しかしエロイーズは、彼女以外には自分を描かせないと言い切る。
キャーっっ

静かなんだけど緊迫感があって、その表情は、タイマン張って挑んでこいよ!的なめっちゃ凄んだ目線の戦宣布告なんです。
これに対してマリアンヌは(繰り返しになりますが)ほんわか笑顔のお見合い写真風の完成品を、その乾き切らない表情を削ぎ落とす衝撃の行動で応戦。まさに戦いのゴングごーん!の世界です💦💦
(さあ〜物語が動き始めましたよ…😬)

物語はその後の濃密な五日間、そしてラストの再会となるのですが、最初、私はエロイーズがマリアンヌと視線を交わさないのは何故なんだろう、と不思議だったんですよね。
次がないかものこの機会に、愛しい彼女の姿をがんがんに目に焼き付けたいって思いませんかね、普通。
だって最近描かれたらしき〝○○夫人〟的な彼女の肖像画でも、私は今もあなたを想っている、のサインを描かせて、彼女の言うところの〝本当の私〟を体現しているではありませんか。
なので視線を合わせなかったのは、もしかしたら図らずも真実の姿でなくなった自分はマリアンヌと対等に向かいあえないと思ったのか。視線を合わさないことが彼女のプライドなのか、あるいは、置かれた状況を恥じてマリアンヌを直視出来ない、の体現なのかは今もよく分からないけど。
しかし今、二人で同じ空間に居ること。理屈はどうあれ、マリアンヌが自分を見つめてくれていることへの嬉しさ、それに前述の複雑な感情とが無い混ぜになったエロイーズの堪え切れないまま崩れる表情は圧巻で、胸に迫りました。
みかぽん

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