keith中村

朝が来るのkeith中村のレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
4.5
 ずっと「神話」を撮り続けてる河瀨直美監督は、時々それに飽きるのか、Down-to-earthな作品も作る。本作もそれ。
 さらに言えば、河瀨監督作では数少ない、原作ありの作品。
 その意味では「あん」に近いところにマッピングできる作品。
 
 原作が売れっ子作家の辻村深月であり(原作未読)、一度ドラマ化もされてる(こっちも未見)ような、いわゆる超「売れ線」な物語を河瀨監督が撮ったというのが、何しろ意外。
 でも、それがきっちり面白いんだ。
 「売れ線」って言っといて、逆接の接続詞でもって「面白い」って書くのもなんだか矛盾してるんだけど、氏のフィルモグラフィからはそうとしかいいようがない。
(ああ、「氏」って使っちゃった。最近はみんな、女性にも平気で「氏」を使うよね。古来は「女史」が正しい用法だし、私は日本語にうるさいのでそっちを使いたいんだけど、なんか近頃はそれもポリティカリー・コレクトじゃない気がして、迷います。日本語にもジェンダー・フリーな敬称ないものかね? っつーか、じゃあ、「彼女の」とか「河瀨監督のフィルモグラフィ」って書きゃよかっただけじゃん、俺! 以上、無駄に長い括弧書き終わり)
 
 ともかく、本作はきっちり面白いのですよ。
 
 「神話」の時は、前日の睡眠時間が短ければ、正直うっかり寝ちゃうこともある河瀨作品(失礼! でも、俺、タルコフスキーでもそうなっちゃうから)なんだけれど、本作はそういう心配もなくって安心!
 河瀨作品に定番の「自然、自然、山、自然!」 「自然、自然、山、自然!」 は、結構「入眠ポイント」になっちゃうんだけど、本作はそれが時には「季節の移ろい」を表しているし、時には「異化作用」になってるんで、へっちゃらでした。
(なんか、この段落、かなり頭悪いな…。「自然、自然、山、自然!」って、「権藤、権藤、雨、権藤」かよ)

 とにかく、「画」で語るのが見事。
 ひとつだけ具体的に書くなら、永作博美がGoogle Chromeを使ってるところ。
 「ベ」だけ入力したら「ベイビーバトン」が検索候補のトップに表示される。
 したら永作さんは、やおらChromeの「閲覧履歴」を開くのね。
 すると、「ベイビーバトン」の履歴がいくつか出てきて、「旦那さんも検索してたんだ」ってわかる。
 (「銀座 レストラン」とかもあったよね。さすがタワマン30階の住人!)
 もちろん、その間わざとらしい独白はゼロ。
 たかだか20秒あるかないかのこのシーケンスだけで、「夫婦の想いが一致していること」と、永作さん演じる「佐都子の頭の良さ、察しのよさ」が同時に伝わる。
 もし俺だったら、「Google先生、流石だね~」とか思うだけで、「ベイビーバトン」にポインタあわせてエンターキー「ターンッ!」で終っちゃうよ。
 この、「佐都子の察しのよさ」は、本作でものすごく重要なファクターだしね。
 
 それと、時系列の入れ替えはテロップもないので、馴れてない人にはちょっと混乱を来すかもしれないと思ったけど、別に意地悪なまでに不親切というわけでもなく、映画ファンなら大丈夫なレベルかな。
(なんて、偉そうに書いてる私自身、最初の「戻り」に気づかず、「二人目の子作りに苦労してるんだな~」と思って途中まで観てた…。馬鹿かも)
 
 本作は河瀨作品の中でも突出して「娯楽性」(これはもちろん、最近では白石和彌あたりを代表とする「しんどい娯楽性」ですが)が高い作品なので、お勧めです。
 
 あと、第二幕の蒔田彩珠ちゃんパートに入って初めて気づいたんだけど、これって、河瀨監督の前作「Vision」の別バージョン作品だよね? 女神であるところのジュリエット・ビノシュさえしくじった「子棄て」は、生身の少女には無理ゲーだよね、っていうテーマ。
 きっつい投げかけでした。でも、素晴らしい。
 
 着地の仕方が、さ。河瀨作品なんで、「死」で終わる予感するじゃん?! 絶対そっちだと思ったじゃん!
 でも、きっちり「救済」にしてくれるんだよね。
 そこはやっぱ号泣ですわ。
 そこで、ようやく本作のタイトルが「朝が来る」だって思い出すし。
 いいですねえ、この映画!!
 
 テーマに即した歌詞のエンディング曲「アサトヒカリ」でもしみじみしてたんだけどさ。
 エンドクロールの最後のあの音声は、泣くべきところなんだろうが、逆に笑っちゃった。
 河瀨さん、こんな「天下一品ラーメン」みたいなこってりしたこともやってくれる人なんだ、って。
 そこも凄く好感が持てました。
 
 本作鑑賞後は、河瀨さんの「Vision」と、是枝さんの「そして父になる」あたりを立て続けに見るのがおススメです!
 あと、対極の存在としての「恋空」もご一緒に!(←なぜ自分が蛇蠍のごとくに嫌ってる作品を人に薦めてるんだ、私は)
 
 ===============
 
 以下、まったくの余談。
 観終わって日比谷シャンテを出たら、広場で巨大スクリーン設置して白石監督の「ひとよ」やってました(3秒くらいちらっとスクリーン眺めただけで、作品を特定できた私を誰か褒めて!)。
 なんだろ、と帰ってきてから調べると日比谷シネマフェスティバルなんですね。
 「ロレンス」とかやってたんじゃん! ま、仕事の時間なので絶対無理でしたが。

 途中で白石監督のことも連想しながら観てた本作なんですが、ほらほら、上にも書いたけど、「しんどい娯楽作品」に河瀨さんが参入してきたら、ヤバい監督さん多いかもよ!
 白石さんは盤石だけど、堤さんあたり大丈夫?
 今日も予告かかってたけど、「ファーストラヴ」期待してるからね!
(「望み」のレビューに続いて、堤さんに失礼な締め方……)