ちゅう

カセットテープ・ダイアリーズのちゅうのレビュー・感想・評価

4.3
音楽は人生の鎮痛剤だ、とどこかで読んだ記憶がある。
僕はこの言葉に根源的に実際的にとても共感する。
殺人的にぎゅうぎゅうでしんどい通学電車の中、酷い言葉で心をずたずたにされた日の眠れずに過ごす夜更け、目蓋を照らす西日を眩しく感じながらも大切な人を失った喪失感で動くことのできない夕暮れどき、音楽が僕の感覚を麻痺させた。
時間の経過しか解決を図れない物事について音楽はいつも味方だった。
時間の芸術である音楽は、Lyricのメッセージと共にここではないどこかを僕の周りに現出させる。
それはこの世で最も素晴らしい救いの一つだと思う。


イギリスに移民したパキスタン人として生活しているジャベド。
舞台である1980年代であっても古いブルーススプリングスティーンに惹かれていく。
マイノリティーとして迫害され肩身の狭い思いをしながら過ごす彼にとって、ブルースは過酷な現実と闘う勇気を与えてくれる武器となった。
ムスリムの保守的な考えを持つ父にも反発しながら、作家になるという自己実現に向かっていく。


僕はブルーススプリングスティーンを聴いたことがなくて劇中の曲をほとんど知らなかったんだけど、そんなこと関係ないくらいじーんときました。

マイノリティーとしてどうやって生きていくか夢を叶えていくかという話でもあるし、父と子と家族の話でもあって、それが終盤に絡まり合って最後のジャベドのスピーチは素晴らしかった。
正直で優しいスピーチだった。


イエスタデイでもそうだったけど、旧植民地であるインドパキスタン系の人を主人公にするイギリス映画をよく目にするような気がしますね。
少し前のものだとスラムドックミリオネアとかもそうだった。
きっとイギリス社会にとって焦点のあたっている大きな問題なんだと思います。

日本だと、ざっくり言えば在日朝鮮人のような存在なんだと思うけど邦画で在日朝鮮人を主人公にした間口の広いメジャー作品てあまりないですよね。
僕はパッチギぐらいしか観たことない。
そういう作品が少ないことは邦画のレベル、もっと言えば日本社会のレベルを物語っているようで少し悲しくもなっちゃいました。
この映画とは無関係だけど。


音楽ってやっぱり素晴らしいと思わせてくれて、マイノリティーについても理解できるよくできた青春映画だったので期待してた以上によかったです。
ちゅう

ちゅう