TaichiShiraishi

音楽のTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

音楽(2019年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

これはなんちゅうアニメやねん。どれだけ気が狂ってんだよ。これを一人で7年かけて作ったのか?それにしては武蔵野館だけじゃかわいそう。これはもっとヒットすべきやで!

序盤のゲームセンターのシーンだけで、緩い絵柄と緩い会話、なのにちょっと仕草が以上にヌルヌル動いているという不思議なトーンを提示している。

不自然なくらい空く間に関しても、手抜きじゃなくてちゃんと笑いやオフビートな演出のためにやっていることが分かる。だって要所要所でとんでもないくらいの超絶作画になるんだから。

シンプルな絵柄のオフビートな会話のリミテッドアニメーションっぽい緩い画面が、いきなり小刻みに震えて、細部までこだわりにこだわったアニメになって、世界観全体が生き生きと鼓動を始める感じが音楽を奏でることの初期衝動を見事に表現していて素晴らしい。あんなシンプルに音を奏でた瞬間の空気が震えてがらっと変わるのを捉えた映画はないぜ。そこだけで見ていて気持ちいい。
無為に不良をやっていた気のいい奴らが真に夢中になれるものを見つけた瞬間の感動を、この手法なら押し付けがましくなく描くことができる。

そして最後のフェスの場面なんてやばいでしょ。アニメーションだけでもかなり動いてすごいんだけど、リコーダーが加わったことによるサウンドの組立の計算された音質なんかも素晴らしい。あんなに原初的な喜びを教えてくれる場面があるだろうか。ただ、けんじがリコーダーが始めた理由は何か伏線が欲しかったけど。

ロトスコープってすごいんだな。とくにリコーダー吹きながら走る場面の上半身と下半身の動きの別れ方とか、驚異的なアニメーションだった。

そしてコメディとしても超絶に面白い。

「古武術」「古美術」なんてどこでどうやって考えついたんだ。ワードセンスが半端ないわ。

ずっと同じ音を練習しているシュールさもたまらんし、古美術の森田の歌声は素晴らしいのに演奏中の様子が逐一面白い感じとか最高だわ。

声優もみんな良かったぜ。この間、バナナマンとバカリズムの番組でアンガ田中の相手をさせられていた駒井蓮ちゃんの声も生き生きとぶりっこっぽくない可愛さで素晴らしかった。竹中直人が謎に出ていたのも笑った。あの人は最近作品選びがおかしくなったけど当たりだな。
前野朋也の何とも言えない台詞回しも大変好みです。

最後の幕引きの唐突さにも笑いつつ、青春っていいなと思わされましたよ。

こんなアニメーションは滅多に見られない。単にレベルが高いという話ではない、アイデアと実力が伴った怪作にして地力の強い作品。こんな衝撃はバイオレンス・ボイジャー以来です。
TaichiShiraishi

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