グラビティボルト

犬王のグラビティボルトのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.9
世間的には水の作家な湯浅政明だけど、俺は上下の作家に感じる。
地べたに這いつくばるようなまさかの夜景が広がる冒頭から、二人の出逢いが反復される上昇を捉えたラストまで胸掴まれた秀作。
二人の歌から生まれた龍の幻影が上昇の果てにある男の肉体を四散させる暴力も強烈で、飛び散った肉片は見事に落下していき、彼らは頂点を極める訳だが、頂上へ登ったら人は降りるものだと言わんばかりの終盤のシビアさも合理的なアクションとアングルを繋いでいく。
橋で繰り返されるライブは頑なに橋の上は友魚、下の河原は犬王という位置関係が一貫しているんだけど、そこが破綻する瞬間の陰惨さが見事。
特に、誰にも頭を下げなかった奇人が頭を垂れた瞬間の悔しさが響く。
ここがあるから、あの夜、二人が有りの侭の姿で再会して、好きな名を名乗り、好きな曲を奏でるラストショットが強くなるんだと思う。
無情な世の仕組みに負けてしまった二人が「向こう側」でならひたすら上昇する事が出来て、その至福の瞬間を垣間見るような見応え。

あと、「きみ波」の花火がミッドナイトクロスだったように、今回も細部にデ・パルマ好きが散見されてた。
血塗れブシャー!はキャリーやフューリーだし、そもそも筋書きはファンパラ+どろろだし。