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ドリームプランのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

ドリームプラン(2021年製作の映画)
4.5
全く観るつもりなかったのですが、あまりにも評判がよいので観てきました。プレッシャーに堪えて、よく頑張った!感動した!(また古いネタですまん。) テニス界の女王ウィリアムズ姉妹を育てた父「キング・リチャード(原題)」の物語です。これ、絶対邦題アカンやつ。タイトルにものすごく本質が詰まってるのに... まあとにかく(原題も含めて!!)リチャードとウィリアムズ姉妹、そして全てのアスリートに対する最高の賛辞になっています。

邦題の「ドリーム・プラン」は、リチャードが作り狂信的にこだわる姉妹をテニス選手のチャンピオンにする育成プランです。冒頭、このプランをパンフレットにしていろいろなコーチに売り込むのですがことごとく拒否されます。ここでリチャードは大きなミスを二つ犯しています。一つは相手に対する敬意。娘には謙遜だの尊敬だのうるさく言うのに、話しかける相手に全然敬意を払っていない。そりゃ断られる。でもね、その敬意が大事と教えた思いはちゃんと娘に伝わっている。そうなんよ、自分ができていないことも大切だと思えばきちんと子供に教えればいい。リチャードは素晴らしい父親で、素晴らしい娘を育てています。

これが次の大きなミス。娘を見せずに投資商品の如くプランだけを売り込んだこと。結局どうやって最初のコーチに指導してもらえることになったか?それは姉妹を連れて行ってその姿を見てもらったから。そう、大事なのはプランじゃなくてあなたが育てた心がきれいで立派な娘。でも、一生懸命なリチャードはちょっとかわいいです(笑)。ただ、この「見て判断してもらわなければならない」という二つ目のミス、ちゃんと反省していて、これがその後のヴィーナスの決断につながり、物語を感動的なものにしています。

この映画はリチャードを聖人としては描いていません。「キング」です。自分たちがたくさんの人に支えられていることを忘れて、どころか一番身近な妻の支えさえも気づかず、いつも自分の意見を周りに押し付け、思い通りにならないとめちゃくちゃする。それでも周りがいい人でかつ娘たちもいい子たちだから匙を投げられない。そして娘が素晴らしいからいいように扱われ、ますます調子にのる。その点では悪い意味でキングです。ただキングの役割ってなに?それは子孫を残して王国を存続させることと国民に力を与えること。リチャードは、教育を大事にし選手としてだけでなく人として素晴らしい王女たちを育て、そして彼女たちがテニス界の女王となり、世界中の人々を勇気づけた。リチャードは素晴らしいキングです。この原題以上の賛辞があるでしょうか?

リチャード、素晴らしい二人のコーチ、いつも傍で支えてくれる最高の母親、姉妹たち、出資してくれる人たち、そして活躍を期待するたくさんの人たち。アスリートがいかに大きなものを背負って試合に臨んでいるか。アスリートに敬意を払いたいなと思いましたし、スポーツに励む若者たちも姉妹のように優れた選手である前に善きアスリートでありたいと思うと思います。

テニスプレイの映像は少し地味ですが、音楽がいい仕事をして上手に盛り上げています。いい面もあり悪い面もあり、でもなぜそう振舞うのかその背景もよく描かれたリアルなリチャードをウィル・スミスが好演。お母さんよかったねぇ。泣ける場面をたくさん作ってくれました。コーチも二人ともすごくよい演技でした。特に二人目のコーチ・リックを演じたジョン・バーンサルがいい味出してた。上映時間が長い映画ですが全然気になりませんでした。迫力の試合場面を期待する方には不満かもしれませんが、個人的にはスポーツもので一番好きな映画になりました。
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