黒澤明監督の名作、『生きる』。
結構前から観たくて、やっと観れた。
『生きる』、とは。
最近個人的にも色々あって、とても刺さるというか、勇気をもらえるというか、込み上げてくるものがあるというか。
先にイギリスでビルナイでリメイクされた方を観て、やっぱり本家を、と。
「この男は生きていない」
志村喬。
役所で当たり障りのない仕事をこなし、ただただ毎日毎日を同じことの繰り返しで何年も生きていた男。
その男がある時、自分が胃癌であり、余命いくばくもないことを知る。
今のことや昔のことなど、一挙に自分の中で押し寄せて1人で思い詰め始める男。
ずっと長らく真面目に淡々とこなしてきた男が突如として無断欠勤し始め、役所でもあれやこれやと詮索が始まったり、これまで波風立ててこなかった彼の周りがザワザワし始める。
今まで何のために生きてきたのか、何をしてきたのか、何を残してきたのか、あと何ができるのか。
こうなれば一思いに死にたいような、でも、人生の最後になってまだ何もしてきてないような気持ちもあり、、、。
とにかくこの路頭に迷う志村喬の演技。ただならぬ雰囲気があって、すごく引き込まれる。
金はある、でも使い方がわからない。
酒は飲める、でも自分でいい酒を買って飲んだこともない。
思い立って酒を飲もうにも、胃癌になってしまった以上、それは毒でしかない。
そこで場末の酒場で会った男に金の使い方を教わりながら繁華街を2人でウロウロ。
イギリスのリメイク版でも思ったけど、このひとときの“遊び”に興じるシーン。
それまで思い詰めまくってた彼の表情が少しずつほぐれていくような、この歳で、このタイミングで人生楽しむ術を始めて目の当たりにするような驚きと好奇の表情がこの『生きる』を伝えてくるような。
「いのち短し〜恋せよ乙女〜」
人生の最後を感じながら繁華街を浮いたり沈んだりしながら謳歌する2人のシーン、ほんと素晴らしい。
そこから欠勤中にいつの間にか辞めてた女性の元部下に会い、「退屈だった」「課長さん、30年も勤め続けたのだから、半年ぐらい休む権利はあるわ」という彼女の言葉に何かを感じながら、彼女の屈託のない笑顔や振る舞いに何かを感じる。
彼女に靴下を買ってあげたり、喫茶店で彼女の面白い職場のあだ名の話とか、これも何ともほっこりするシーン。
志村喬がここでやっと笑顔になって会話したり、遊びに出かける姿がとても印象的。
この女性、ほんと屈託なく元気で明るくて、歯に衣着せぬ物言いと自然体、素敵。
そこから彼が『生きる』、死んでも生き続ける。
最後に誰かのために何かを成し遂げる。やってやれないことはない。
市民のために公園を作る。何度も申請段階でたらい回しにされて立ち消えかけたその市民の期待と希望に応えんとした。
それが、この志村喬のブランコのサムネイルに。
黒澤明と志村喬の、人生の最後に生きる希望とその意志を残した男の話。
御霊前を前にしたシーンもこの映画の縮図。このタネ明かしが御霊前で参列者たちの記憶や推測と共に行われていく様が印象的。
人はどこに向かって生きて、死ぬのか。
ちょこちょこ黒澤明のサムライ映画に出てくる“いつメン”も出てきて良かった。
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TSUTAYA DISCAS運営の映画コミュニティサイト「Discover us」にて同アカウント名でコラムニストをさせて頂くことになりました。
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別視点で色々映画について書いていこうと思います!ご興味ある方は是非お待ちしております!
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