継

陸軍の継のレビュー・感想・評価

陸軍(1944年製作の映画)
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第二次世界大戦中, 国民の戦意高揚を目的に陸軍省の依頼で製作された国策映画です(1944年公開)。

天皇を “天使様” と呼んでいた時代の作品。
父権社会を身を持って象徴するような強い父親,それに黙って従い家を守る母親, そして後に成長して出征する息子。
監督の木下恵介は,“男の子は天使様からの預かり物だから…” と, 息子をその役に立てるよう厳しく育て上げる様子を当時の世相の上に描き出していきます。

ですが,
息子の入隊が決まり「肩の荷がおりた」と胸をなでおろしていた母親(田中絹代)の描き方は, いざ当日となり出征兵の行進を知らせる軍隊ラッパの音を聞くや, それまでとにわかに様子が変わってしまいます。

それは天使様の預かり物などではなく, 自らのお腹を痛めて産んだ我が子が心配で心配でいてもたってもいられなくなった, 真の母親の姿でした。
それまでを軍の意向に沿うよう撮ってきた木下はこの終盤で意図的にその意向から外れ, 台詞や劇伴に頼る事なく只この母親の姿・表情のみをひたすら映すことを持ってして, 己の思いを観る者へ訴えかけているように思えてなりません。



「三千年の歴史を泥土に帰せしめたのは, 政治上の発言権を持った男性社会の失敗ではないのか?
女性にいま少し早く男性同様の発言権を与えていたら, 母の子への愛情から, 妻の夫への願いから,或いはこの無謀な戦争は食い止められていたかもしれないー.」(楢橋 渡)

女性の参政権が認められたのは1945年10月, 本作公開の翌年です。
仮に戦前から女性に投票権があったとしても戦争は起こってしまったかもしれませんが, 同時にあれ程に軍の独走を許してしまう事はなかったかな?とも思います。
バランスの偏りは国策の偏りに繋がりかねません。投票出来る権利を大切にしたいです(^^)
継