今年に入り、韓国映画の近代政治・歴史物にどっぷりハマり(当たりが多く)、観たいと思っていた本作。金大中大統領がモデルとなった政治家キム・ウンボムと彼の政治活動でまさに“暗躍”した参謀的人物をモデルとしたソ・チャンデという2人の人物の関係性を描いた本作。こちらもやはり面白かったです。
全体的な印象としては、韓国社会派系映画特有の湿っぽくドロドロした重苦しさはあまりなく、なぜか映像、音楽、演出ともにどこかハリウッド作品を観ているような感覚を持ちました。そこに映る人物や背景など、画自体は明らかに韓国なのだけれど。
「1987 ある闘いの真実」や「工作 黒金星と呼ばれた男」などでは、社会全体や政治のうねりやその中での理不尽さがより前面に出てきて重厚感があったのですが、本作は作品のテーマ上、社会的な動きや問題そのものよりも、ある政治家の活動と主人公2人の関係性にフォーカスしており、その点で作品のスケール感、迫力は前述2作品よりはやや欠けていた分、重厚さを感じなかったのかもしれません。
また、若き日の金大中大統領をモデルとしたキム・ウンボムが政治思想的にかなり“クリーン”なイメージとして描かれていたことで、韓国映画特有のドロドロした人間関係もそこまで感じませんでした。韓国映画の政治や警察絡みの人間関係は、時に強烈なくらいエグイので・・・
しかし、全体として、韓国の政治活動における裏工作が観られるのはとても面白いです。しかもそれが自分たちの政党の公約で国民を惹きつける、というものではなく、もはや詐欺紛いの策略で相手政党のイメージを徹底的に傷つけて自滅させるというもの。
本作内で描かれる主人公ソ・チャンデが打ち立てる“相手を蹴落とす策略”はなかなかに姑息で、どこまでが当時現実に起きていたことなのかよく分かりませんがエンタメとして観る分には単純に面白かったです。
まあ、これは韓国に限らず、アメリカや日本でも党首討論等で相手政党を叩いてイメージを落とし自政党の支持を集めるのは常套手段だと思いますし、その裏にも色々な駆け引きが起きているのでしょうが、さすがにここまで直接的なことは選挙法などから難しそう。
しかし、韓国政治はよく分かっていませんが、この作品の描かれ方からも、金大中大統領はやはり韓国内ではかなり人気があった大統領なのでしょうね(親日の大統領で在任時は日韓関係もとても良好だったことを覚えています)。
あくまでもクリーンな政治家キム・ウンボム(金大中)と対照的に、目的遂行のために徹底したダーティープレイに走る参謀ソ・チャンデの人となりがもう少し分かれば(複雑な出自のようなので、なぜこういう人格になったかなどの背景が知りたい)、より登場人物に感情移入できて面白かったのかな?とも思いましたが、韓国政治エンタメとして、十分に楽しめる作品でした。