このレビューはネタバレを含みます
キューブリックが運転手として雇い、私生活の大部分を頼ることになった元レーサーのエミリオ・ダレッサンドロのドキュメンタリー。
エミリオさん、いい人生送っているなぁ。レオン・ヴィターリさんとは違う雰囲気。彼はワークライフバランス取れてる。でもキューブリックはゴリゴリに私生活に干渉してきていたけど。あいつどんだけ周りに迷惑かけてんだよ笑。
エミリオさんが最初にキューブリックの仕事に関わった時計じかけのオレンジのチンコオブジェを運んだ話は面白い。まさかあれが初仕事とは持ってるな。
そんなエミリオは数々の仕事を通してキューブリックのお抱え運転手となり、彼の私生活のあらゆる雑事をこなす、欠かせない人間になっていく。
キューブリックの生真面目でめんどくさい注文の数々も手紙などで残されているのだが、あまりにイメージ通り過ぎて逆に面白い笑。
特にキューブリック宅は飛行機嫌いで自宅から離れたくないキューブリックにとっては映画スタジオにも変わる場所だったのだが、そこで掲げられている絶対的12のルールが実に彼らしい。
しかしどれだけキューブリックは完全主義者なのか。絶対に下で働きたくないわ。
当たり前のことながら常に守ろうと思うとかなり難しいことばかり。この徹底を強いる姿勢が彼の緻密な作品群を作り上げてきたのがよくわかる。
しかしこのエミリオの思い出話で出てくるキューブリックはとても人間らしい一面だらけだ。
食の好みも苦手なものもよくわかるし、だんだんキューブリックが可愛く見えてくる。
特に毎回署名までつけて頼みごとのために手紙や電報使っている律儀さが不思議。
エミリオ自身が映画好きというわけでなく後年になるまでキューブリックの映画を見ていなかったということからか、そこまでマニアックなキューブリック作品の話は出てこないが、その分、こちらの映画のほうがキューブリック初心者にはおすすめしやすい。
どんな人間でも誰かに支えられて生きている。出会いや貰った仕事、縁を大事にしていくと幸せな人生が待っているというのがよくわかるいいドキュメンタリーでした。
にしてもエミリオの親が死にそうな時に2年間引き止めた話はなんか笑い話になっていたけどちょっと流石に引いたわ。それはあかんよ。
でも引退したら暇になって寂しくなっているのが可愛いな。そんでキューブリックとの思い出はめちゃくちゃ鮮明に覚えてるし。やはりなんだかんだいい人生だったんだな。
こういうアーティスティックな部分とは別の裏方の仕事がどれだけ社会を支えているかよくわかった。エミリオさんの立場に当たる人には映画ファンとして頭が上がらない。
魅せられた男も込みでいい企画でした。キューブリックも周りの人間もありがとう。
ただ一番好きな映画がスパルタカスってキューブリックに言っちゃダメよ笑。