みかんぼうや

デンマークの息子のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

デンマークの息子(2019年製作の映画)
4.2
これは思わぬ傑作社会派サスペンス!レビュー数が極端に少ない作品で半信半疑で観始めたが、開始5分で、その映像や演出に巧妙さとセンスを感じ、「あ、これ絶対に好きな作品だ」と確信。そこから先の物語の展開も見事で、脚本も含め全てが高クオリティ。これが初監督作品かと思わず唸らされた。

2025年のデンマークの近未来を描いた作品で、もともと移民受け入れに対して保守的と言われるデンマークで、移民を排除する政党が支持され、移民排除の過激派団体が暗躍する中、一人の青年が母のもとを発って、この移民排除の動きに反発する組織に加わることから物語が始まる。

鑑賞開始直後は、この青年がテロ活動を行う一連の流れを描く作品だと思っていた。というのも、タイトルはこの少年のことを指し示しているものだと思っていたし、何よりも事前に観ていた予告編では明らかにそのように思わせられたからだ。

しかし、物語はそんな単純には終わらない。サスペンスの性質上、できるだけネタバレ、前情報無しで観て欲しいため、これ以上は細かく触れないが、「あれ!?この映画、主役は!?」とか「そんな皮肉的なことが!?」と思わせられる、2段階、3段階とギアチェンジをするかのような話の展開はサスペンスとして模範的。さらに、自身もイラクからの移民2世である監督の、デンマークにおける移民政策における明らかなる警笛がメッセージとしてしっかり込められた社会派ドラマでもある。

サスペンスとして最後まで惹きつけて離さない映画としての純粋な面白さとナショナリズムに傾倒しようとする国家についてのメッセージ性の強さが高次元でバランスを保っているため、“メッセージは強いけどあまり面白くない”、“面白いけど中身がない”にならず、非常に濃厚で見応え十分だった。

冒頭の記載通り、本作はウラー・サリム監督のデビュー作。最初からこんなポテンシャルに溢れた作品を見せられたら、これからの作品を期待せずにはいられない。新たに追っかけていきたい監督に出会えた喜びを感じられる作品だった。
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