えいがうるふ

少年の君のえいがうるふのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
4.9
ただただずっとひたすら辛い。
ただでさえ受験間際という逃げ場のない状況で学校にも家にも安らぎがない、それだけでも泣きたくなるのに、さらにイジメどころか完全に犯罪レベルの暴力・・見ているこっちまで心がボロボロにされていく。
中国の受験戦争の実態がどれほどのものなのか知らないが、ここで描かれた世界がさほど現実離れしたものではないのだとしたら恐ろしい。

しかし、そんな殺伐とした閉塞空間の中で出会った二人は、お互いを引き寄せたその蜘蛛の糸のように頼りない絆を恐る恐る紡ぎ出す。やがてそれはどれほど細く他の誰にも見えずとも決してちぎれない強靭な絆となっていく。

やりきれないほど重く心が沈むシーンも多いが、犯罪ミステリー要素もしっかり内包し、最後まで観る者を飽きさせない骨太な脚本が実に素晴らしかった。

さらに特筆すべきは若き主演二人の凄まじい演技力。近頃はいわゆるお涙頂戴仕様の感動作を観てもそうそう涙を流すことがなくなり、もはや感性が老化したかと思っていた自分が、セリフもなくガラス越しにただ見つめ合ってるだけのシーンでこんなにぼろぼろ泣かされるとは。参った。

最後の最後でああそうだこれ中国の映画だった、といきなり現実に引き戻されるやや無粋なエンディングになっているが、検閲などを考慮してのことなら致し方なし。それでもこの作品の持つ稀有な価値が下がるわけではない。むしろ、こうした形で政治的圧力をかわしながらもその先にある世界に届くよう、告発にも近いシビアな社会批判を織り込んでいるところが秀逸。彼の国界隈の映画人の苦労がしのばれる。