サマセット7

シャン・チー/テン・リングスの伝説のサマセット7のレビュー・感想・評価

4.1
MCU25作品目。
監督は「ショートターム」「黒い司法0%からの奇跡」のデスティン・ダニエル・クレットン。
主演は主としてテレビドラマで活躍していたシム・リウ。

1000年以上前、持つものに永遠の命と強大な力を与える装具テン・リングスを手に入れ、世界を裏から支配する帝王となったウェンウー(トニー・レオン)。
現代において彼はテン・リングスと呼ばれる犯罪組織を率いていたが、アジアの奥地に隠された村の入り口で、不思議な武術を操る美しい娘リー(ファラ・チャン)と出会い、恋に落ちる。
・・・2人の間に生まれた、運命の子供シャン・チー(シムリウ)は、エンドゲーム後の現代において…、サンフランシスコでホテルの駐車係をしていた!!???
ショーンと名を変え、親友ケイティと愉快な毎日を送るシャン・チーだったが、ある日突然刺客に襲われ、父親から暗殺者として身につけさせられた技倆を用いて、自らの過去と、そして父親と、対峙せざるを得なくなる…。

アメコミ界の二大巨頭の一つマーベルの仕掛けるアメコミヒーロー大河シリーズ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)。
これまでの24作で、MCUは、あらゆるジャンル映画をアメコミヒーローものとミックスして、新しい味を提案してきた。
ロボットSF、ポリティカルサスペンス、神話ファンタジー・コメディ、スペースオペラなどなど。
また、ブラックパンサーでは、主役悪役サイドキックなどほとんどをアフリカ系人種で構成し、キャプテン・マーベルでは、女性を単体の主役に据えるなど、主役ヒーローを白人男性が占めてきた固定観念を壊す作品も作ってきた。

そして、今作、である。
今作は、アジア系ヒーローが史上初めてアメコミヒーロー映画の主役を張っている。
そして、今作のジャンルは、アメコミヒーローものと、カンフーアクション、あるいは武侠ファンタジー映画のミックス!!!
すでに、全世界的なメインストリームと化した感のあるMCUにおいて、ここまでアジアンカルチャーがフューチャーされることは空前絶後。
言うまでもなく、歴史的なことである。
アジアに生きる人間の1人としては、素直に喜びたい。

鑑賞は公開初日なので、世間の評価はわからないが、一部海外サイトではすでに高い評価がついているようである。

私の感想は、とっても、面白かった!!!!
ヒーローのオリジンストーリー(第1作)としては、上位に入る好きな作品となった。

特に私に刺さった部分は2つ。
一つは、カンフーアクションの面白さ!!
そして、もう一つは、キャラクターの良さである。

最近の映画は、格闘描写に手抜きのないものが増えている。MCUも同様、格闘アクションは総じてレベルが高い。
とはいえ、往年のカンフー映画に慣れ親しんだ者からすれば、上には上があることもまた知っているものだ。
今作のカンフーアクションは、そうした往年のカンフー映画と比べても遜色ない。
格闘アクションとして、少なくともMCUの中ではトップクラスだろう。
カナダ出身のシム・リウは今作のトレーニングに入るまで、本格的な武術の専門家というわけではなかったようだが、到底そうは思えないキレのあるアクションを魅せてくれる。
特に彼が初めて本格格闘を見せるバスのシーンは見どころだ。

香港映画界のレジェンド俳優トニー・レオンの武侠アクションといえば、チャン・イーモウ監督のHEROの大ヒットが思い起こされるが、今作序盤の幻想的なアクションは、まさに90年代から0年代にかけて流行った武侠ファンタジー!!!
構えに合わせて舞い上がる花吹雪!!!
序盤でこの映画のやりたいことがドバドバ出てくるので、こちらの覚悟も決まるというものだ。

今作に登場するキャラクターの魅力は、個人的にはMCUでトップクラスだと思った。
端的に、シャン・チーとケイティのコンビは、好きにならずにいられない。
男女のコンビだが、ステレオタイプな恋愛する男女ではなく、10年来の親友、という関係性。
ユーモラスな普通のにいちゃんだが、いざ素手での戦闘となると無類に強い、シャン・チー。
ユーモアと行動力と「普通さ」を兼ね備えた、ベストフレンド・ケイティ。
今作は、この2人の魅力に尽きる。
2人ともいわゆる美男美女ではないが、観賞後は、そこが、むしろ、とても良いと思う。
というか、容姿の美醜など、観賞後はどうでも良くなる、というべきか。
関係性も、キャスティングも、また、アジア系北米人という複雑なキャラクターも、非常に現代的であり、新しいと思う。

MCUシリーズ他作との関係も楽しい。
テン・リングスといえば、アイアンマンで何度か登場した悪の組織だが、今作でもしっかりとアイアンマンシリーズとの関連が描かれる。
もちろん、シリーズ関係者が何人か出てきてくれるのも、お楽しみポイントだ。

脚本、美術、演出と、安定のMCUクオリティ。
やはり、凡百の作品と比べて、話も映像もよくできている。
オチにも満足である。

アジアネタは、そこかしこに見られる。
カンフー映画や武侠映画のオマージュや中国神話的世界観はもちろん、戦国無双などのゲーム、特撮、あるいはドラゴンボールなどのアニメ、漫画などのアジア発カルチャーの影響も感じた。

今作のテーマは、乗り越えるべき存在として、あるいは、和解する相手としての父親、であろうか。
明らかにテーマ上、最重要の役は、ウェンウーであり、だからこそ、トニー・レオンが配役されているのだ。
絶対的な存在として君臨する父親。
その父の影に怯えるように身を隠し、その日暮らしを続ける息子。
しかし、大人になる上で、どこかで、父親もまた、自分と同じく弱さや脆さを抱えた1人の人間に過ぎないことを理解し、受け入れる時期がやってくる。
その葛藤を乗り越えて、ようやく人は大人になり自らの責任を自覚するのだ。
まさしく、今作のストーリーは、こうした父子の関係性を描くものである。

また、中国系アメリカ人が置かれるアイデンティティの複雑さを描きつつ、そんな複雑な背景を持つ人物に、万人をして共感させる、という点も、今作の狙いだろうと思われる。
だからこその、シム・リウ、オークワフィナの「親しみやすい」キャスティングではないか。
少なくとも私は2人が大好きになったので、今作の狙いは達成されているように思う。

MCUに新たな魅力を加える、意欲的なカンフーアクション・ヒーロー映画。
コロナ禍においてアジア系人種に対する風当たりが厳しい昨今、今作の意義は特に大きく思える。
今後もMCUで大活躍して欲しいものだ。
その際はぜひ、ケイティもコンビでお願いしたい。