サマセット7

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.9
MCU30本目の長編映画作品。
監督は「クリード/チャンプを継ぐ男」「ブラックパンサー」のライアン・クーグラー。
主演は「ブラックパンサー」「ナイル殺人事件」のレティーシャ・ライト。

[あらすじ]
エンドゲームの戦いの後、病により国王にして王国の守護者ブラックパンサーことティ・チャラ(故チャドウィック・ボーズマン)を失った、アフリカの秘密国家ワカンダ。
母である女王ラモンダ(アンジェラ・バセット)、妹の王女シュリ(レティーシャ・ライト)、親衛隊長オコタ(ダナイ・グリラ)らは哀しみに沈む。
そんな彼らの前に、深海の帝国タロカンの王ネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)が現れ、武力を背景に難題を突きつけるが…。

[情報]
アメコミ界二大巨頭の一つマーベルコミックのスーパーヒーローたちを横断的に登場させ、今や世界で最もヒットの見込めるコンテンツとなった感もある、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の30作品目の長編映画作品。
ブラックパンサー単独シリーズとしては、前作ブラックパンサーに続く2作目に当たる。

前作は、ほぼアフリカ系のキャスト・スタッフで映画が作られ、美術や音楽も大々的にアフリカ系ルーツを取り入れ、テーマ的にもアフリカ系人種の置かれた政治的立場や人種差別の問題に鋭く切り込む、という、アメコミヒーロー映画としては前例のない攻めた内容に、高い評価を集め、大ヒットとなった。

続編にあたる今作は2018年に前作が公開された直後から計画され、2019年には正式発表された。
しかし、2020年8月28年、主人公ブラックパンサー/ティ・チャラを演じたチャドウィック・ボーズマンが大腸癌で死去。
スタッフ一同哀しみに包まれ、マーベルスタジオは、計画の大幅変更を余儀なくされる。

今作にあたっては、チャドウィック・ボーズマンの代役を立てないこと、チャドウィック・ボーズマンを映像処理して登場させないことが事前にアナウンスされていた。
そのため、作中におけるティ・チャラの扱いやストーリーがどのように描かれるのか、注目を集めていた。

エンドゲーム後のフェーズ4では、Disney +でのドラマシリーズの展開も加わり、登場人物や世界観の広がりは加速している。
マーベルスタジオは、フェーズ4について、エンドゲーム後のキャラクターのイントロダクションと位置付けていると報じられている。
今作においても、前作のスタッフ/キャストが再集結すると共に、新キャラクターとして、コミックで著名な海のアンチヒーロー、ネイモアや、アイアンマンスーツを継ぐ少女リリ・ウィリアムスの登場が早い段階で予告されていた。

今作は、MCUフェーズ4の最終作になるとされている。

現時点で、日米同時公開日から4日が経過し、評価は定まっていないように思われる。
一般層中心に高い支持が見られる一方で、必ずしも評価しない、という批評家も一定数いるようだ。

今作は2億5000万ドルという非常に高額な製作費で作られている。
公開4日目の現時点で少なくとも3億3000万ドルを稼いでおり、大ヒットは確実に見える。

[見どころ]
今作は、チャドウィック・ボーズマンに捧げられた作品である。
彼=ティ・チャラの喪失をキャスト/スタッフ/作中人物と共に受け止め、共に追悼する体験にこそ、今作の最大の見どころがある。
魅力的な女性キャラクターたちの大活躍!!
ラモンダ!
シュリ!!!!
リリ!オコエ!!ナキア!

[感想]
泣いたー。

正直、作品の完成度としては微妙かもしれない。
前作の大きな特徴であり最大の魅力であった真摯なメッセージ性は、様々な理由から脱臭されてしまっている。
MCUならではの複数の必達事項を課せられたことが、ストーリーに不要な描写を増やしてしまっている。
プロットも強引な部分が多々見られ、到底流麗とはいえない。
アクションも、MCUの中では平均以下だろう。
これらは、途中で脚本変更を余儀なくされたことやコロナ禍と無関係とは言えないだろう。

しかし、実在の俳優が亡くなり、それに呼応して、作中のヒーローも亡くなり、その喪失感を、作中キャラクターと観客が共有する、という体験は、稀有なものだ。
これは、MCUという大河シリーズならでは、かもしれない。

作中のシュリやラモンダらの喪失の悲哀と苦悩は、世界から俳優チャドウィック・ボーズマンを喪失した観客の感情とリンクして、他の映画では経験のない感情体験につながる。

要は、作品外の事情が重要な作品である。
ひょっとすると、そのあたりの事情を知らずに観た客にとっては、冗長で眠たい作品だったかも知れない。

私は、泣いた。
シュリ…。可哀想すぎる…。

今作は、女性キャラクターがMCU作品の中でも随一に活躍する作品でもある。
基本的にシリアスな展開の中で、シュリ、オコエ、リリらがわちゃわちゃと会話するシーンはとても楽しかった。
オコエのアクションは、相変わらずキレが良く、カッコよかった。

新キャラクターは、いずれもこれからに期待、という感じか。
既存のキャラクターでは、エムバクが良かった。

今作には、MCUらしいサプライズもいくつかある。
そのうちの一つは、テーマとも絡んで非常に良かった。

[テーマ考]
今作は、総じて、死者を悼むことをテーマにしているように思う。
キャラクターそれぞれの死者との向き合い方は、色々なことを考えさせる。
一見、死者とは無関係に訪れる苦難の中でも、死者への追悼は休みなく続いているのだ。
その中で、哀しみから逃避するのか。
あるいは復讐の連鎖に身を投じるのか。
それとも、悲しみを受け入れて前に進むのか…。
言うまでもなく、観客は、チャドウィック・ボーズマンの不在についても考えざるを得ない。

一方で、有色人種への抑圧に対するメッセージ性は、タロカン王国関係であるにはあるが、前作に比べればないに等しい。
その意味で、より前作の偉大さが解る作品、とは言えそうだ。
チャドウィック・ボーズマンが生きていれば、どのような作品が作られただろうか。
もはや、我々が観ることはない…。

[まとめ]
俳優の死と作中キャラクターの死がリンクした得難い体験ができる、アメコミヒーロー大河シリーズの一編。

哀惜を込めて。
ワカンダ、フォーエバー。