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リサと悪魔のjonajonaのレビュー・感想・評価

リサと悪魔(1973年製作の映画)
3.8
奇妙でとても面白い。
古典ホラーでも見るかと思って漫然と見始めたがこれが意外な掘り出し物でした。

これは夢映画といってもいいのでは。いや怪奇映画の類なのかもしれないがこの幻惑してくるシュールレアルな感じ…
序盤から一瞬で迷子になってしまう奇妙なムードはなかなか堪らない。

壁画に描かれる死人を連れ去る悪魔のよウナ男と目が合ったと思うや否や、観光地だったはずなのに突然人っこ1人いなくなる。美しいが人がいないと急に主人公を閉じ込める袋小路のような空気を漂わせる塗壁の家々をすり抜ける。
美しいのよ、ここが。キリコの『通りの神秘と郷愁』を思い起こさせる、ノスタルジックで不気味な寂しさがある。美術・装飾は全般的に凝ってて素晴らしかった。
その上で微妙に人がいるのもいい。窓からちょっとだけ顔見えてあの〜て声かけたらバタンて対話拒否で締められるあの感じ。侮蔑というか存在してないみたいに。こういう夢見ることある…!笑
そいで最後に現れるのが悪魔に似てるあの男で男性の人形をなぜか担いでるのだが、主人公はその時気付かない(?)がその人形は直前で主人公がすっ飛ばした男にそっくりなのだ。

本作は非常にうまく重ねてシンボル表現を連発することで『何かが』欠如してるこの世界(あるいは主人公の記憶)を不気味に表すことに成功してる。

悪魔のような男は、初めに壁画として出てくる。その後は人形を抱える紳士服で。そのあとは偶然立ち寄ったはずの館の執事として(その後死人を棺にぼきぼき折って収めたりする…あれ怖い!)。

髭面の茶色スーツ男は『僕を忘れたのかい?』と主人公に詰め寄り突き飛ばされ死に、次のシーンでは担がれた人形として登場。さらに館でも何事もなかったかのように生き返って現れは死に、これを繰り返し現実の境目があいまいにされていく。

こうなると謎なのが、主人公である。
繰り返し現れるイメージは彼女の精神世界の具現化であろうことが急速に見えてくるのだが、彼女が実際過去にどんなことがあってこの幻影や(ひいてはこの悪夢世界に)取り残されてるのかが分からない。
そこが一切語られないままイメージの繰り返しが起こり気になってくる。一体彼女の過去に何があったのか…?

奇怪な状況がずんずん続く脚本なのに、そういう風に彼女のもつ謎自体に目線がいくように設計されてるのがすごいんじゃないのこれ?と思うんごね。
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