このレビューはネタバレを含みます
普通に水準の高い映画だけど、今泉監督だからこ注文したくなるものがふえてきていることを認識した作品だった。
ゲイカップルを扱った題材だけど、それでもいつもと変わらず人を愛することの尊さを描いている。いつもどおり恋愛についての映画。そして家族の物語であり、「普通」ってなんだろうと問い直す映画。婚や新しい家族の形というテーマも掘り下げていて、『クレイマー、クレイマー』や『マリッジ・ストーリー』も連想。
松本若菜がいい仕事をしていて、普通に考えたら夫に浮気された仕事に邁進するシングルマザーとして応援されそうな立場なのに、どこかいけ好かない感がある女を上手く演じていた。
だからこそ、渚が浮気をした側なのに性的マイノリティだからというだけで、無条件に応援したくなってしまうといういびつさが浮かび上がり、最後には逆に自ら身を引いて『自分たちが一番弱いと思っていた』と言わせるバランス感覚が生まれる。
そして田舎は保守的で閉鎖的というステレオタイプも打ち破る不自然さのない岐阜の人々の善良描写に癒された。松本穂香もギリギリ田舎にいそうなタイプの可愛い子としてちょうどいい。根岸季衣もいい仕事してたし、鈴木慶一もハマってた。
ちょっとした食卓シーンでも、迅と渚の間に空が座っているって座り順にして、今の二人の関係性を示していたりと映画的な演出もさりげなくうまい。
ただ類型的な描き方が多かったのも否めない。特に奥さん側の弁護士。思想的にああいう差別的な考えの方はいるだろうけど、弁護士になるほどの頭の持ち主で時代にも敏感なんだろうから、法廷の場であんなにゲイに対する偏見むき出しの発言をするだろうか。普通に仕事上で不利になるだろ。そんな発言したら今のご時世炎上しかねないのに。
空ちゃんの演技も子役っぽさが強くて苦手。「mellow」の子役はあんなに自然な演技だったのに、今回は言わされている感が強い。
あんな幼子に「好きな人同士でいるのは普通だよね」みたいなテーマ性むき出しのセリフの数々を言わせるのは得策じゃない思う。
今泉監督の映画は大人だけしか出てこない方が好きだな。
それから今回もテーマに関するセリフは空ちゃん以外にもたくさん言わせててちょっとくどかった。
それでも最後4人で遊んでいるのを引きで撮って、新しい家族のあり方を見せるラストカットは確かに良かった。ウルッときました。
それだけに東京にいるときの周りのゲイへの無理解さがちょっと在り来りすぎる。
ただ迅が回想で東京で働いていた頃の、セクハラの数々の描写は興味深い。男×男でもセクハラが成立すると見事に描いている。
それは相手がゲイじゃなくてもあかん。「いい男だから試してみようかと思ってた」なんて行ったらあかん。
あと、これ言ったら申し訳ないが、氷魚くんのビジュアルがあんまり好きじゃない。田舎で暮らしそうな人には見えない。
あと、公式あらすじだと、なんか高校生時代から付き合って、それから再開するまで12年経っているみたいな話だったけど、映画見ただけじゃわからんよ。あいつら高校生だったのか。
今泉さんの中では好きじゃない方だけど、まちがいなく水準は高いです。