【第一次世界大戦の戦場に没入できる名作】
全編ノーカットと銘打ち、日本で満を辞して公開された本作。パラサイトの快挙で霞んでしまっている感はあるが、国際政治専攻の私はこちらの方がやはり好きだった。
ストーリーは極めてシンプル。第一次世界大戦も終わりに近く最中、イギリス軍の兵士が、「攻撃中止」の伝令を前線へと届けるべく、危険を冒して戦場を突き進む。以上。
2時間強にわたり、ひたすら二人が戦場を駆け巡る様は、臨場感満載。戦争モノと言うと、つい歴史的なワンシーンに至るまでの流れが描かれることをイメージしてしまうが、本作はこれとは異なる。本作が描くのは、余程歴史に詳しく無い限り、この伝令がどの攻撃を中止させたのか分からないくらい、マイナーなワンシーンである。
だからこそ、実話でありながらフィクションのような感覚で見られる。それに、他にも戦場に於いて、このような名もなき戦士の秘話が無数にあるのだろうと、思いを馳せてしまう。
さまざまな苦難を乗り越え、前線に辿り着いた末の会話は実に味気ない。今でこそ、これらの賞賛されるべき戦場での行為の数々は、戦争という非常時に於いては、日常的なことなのだろう。
スコットフィールドと共に、戦場を決死の思いで駆け抜けた鑑賞者（私たち）は、その違和感を胸に劇場を後にする。本作は、決して戦争の愚かさや反戦を煽るような描写はない。けれども、いや、むしろそうであるが故に、観るものにより強く平和の尊さを印象付けることに成功しているようにさえ思えてならない。
