Kachi

線は、僕を描くのKachiのレビュー・感想・評価

線は、僕を描く(2022年製作の映画)
3.7
創作活動における逆説を作品化

「線は、僕を描く」は、主客が逆転しているような印象を与える。ただ、小説家が小説を書きながらものを考えたり、ビジネスパーソンが会話をしながらアイデアを膨らませたりするように、描いて考える人も存在する。

水墨画を扱っている時点で多少変わった作品だという印象を受けるが、まさに言葉ではなくて絵を描くことによって自分の思考を表現するという、俗に言えばビジュアルシンカー(Visual Thinker)を体現したような作品。
※もっとも、私は言語優位のため絵で考えたことは多分ない

本作は、筆の使い方や対象の切り取り方、対象を描く先にあるものを考えていきながら、何をどう表現するかを思案する2人(青山と千暎)に焦点を当てている。原作では、おそらく他の人物も含めた群像劇なのであろうし、2人の物語もまだこれからなのだろう。

青山の家族に起きた不幸とそこからの回復が主題ではあるものの、映画内では作品と向き合うことで青山自身の心にどのような変化が生まれたのか、また、千暎自身がそんな青山の作品に感化されて自分の作風にどう落とし込み直したのか、といった部分はあまり丁寧には描かれていなかった。

そういった点もあり、若干不完全燃焼ではあったものの、真っ白な紙に水墨のみで躍動感や凛とした佇まいを表現する水墨画の魅力は十二分に伝わる作品であり、横浜流星と清原果耶の好演もあり見応え十分であった。
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