Kachi

パレードのKachiのレビュー・感想・評価

パレード(2024年製作の映画)
3.8
優しさに包まれた作品

東日本大地震から12年以上(干支が一回り)経ったからこそ撮れた作品だと思った。震災からしばらくの間は、震災に関する作品の大半が、死者を悼む残された人々の話や予期せぬ出来事を前に無力である人間観が描かれていたような印象がある。

翻って本作「パレード」はどうか?
死者だが未練のある者は、現世とは別次元に居ながら生者を見守ることができる世界を描いている。生きている人は、見守られていることを感知することは出来ないが、死者は気が済むまで現世に留まり、本当の死を受け入れる準備をすることができる。

実際はどうか誰にも分からないが、こういう仕組みで世界が回っていれば、無念の死というものは無くなるのではないだろうか…?そんなことを念頭にパレードは制作されたのかもしれない。

「青春18×2」でも登場したが、今回も「失われた時を求めて」が登場する。タイトルだけを借りた形ではあるが、藤井道人監督のこだわりを見た。今回に限って言えば、『失われた時を求めて』の原作そのものの長さが一つのポイントであり、坂口健太郎演じる誠が大量の原稿を書き溜めていることと何処かリンクしているのかもしれない。

森七菜演ずるナナは、あの世界に於いて異質な存在だった。終盤のユーロスペースで未だ生きていて、リョウに対して母親(美奈子)の話をするシーンから察するに、ナナは死んでいない。少しわかりにくかったが、料理や飲み物の味を感じない等の感覚の違いから、ある程度推測しなければならなかったのだろう。ナナ目線では、生死を彷徨った時に見た夢のようなものなのだろう。

たびたび登場する蝶や始まりと終わりが一つの円環を成していることもあり、輪廻転生、東洋思想を強く感じる。

せっかくなので、ユーロスペースで期間限定で上映しても良いのではないだろうか?そんなことを思った一作だった。
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