Kachi

異人たちのKachiのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.8
退屈だが感慨深い、そんな作品

脚本家のアダムは、2人しか居住者のいないロンドンのマンションに住みながら、いわゆる中年の危機に苛まれている。もう1人の居住者であるハリーも同様に、アルコールで孤独を紛らわせている。

原作を読まず/観ずにきたため、ここからアダムの両親が出てくるシーンの意味をしばらく理解し損ねており、事故で亡くなっているはずなのになぜいるのか?何が引き金となって現れるのか?判然としながら、最後にはハリーやアダムの生死さえ曖昧になっていった。

そのような印象操作を可能にしているのが、極めて抑制された劇中の表現の数々。映画的な盛り上がりに欠けるものの、いや、それゆえにクラブで視界がボヤけていった時に、気がついたらアダムの母がいて、他愛の無い会話をしていた。(実際、中盤から映画館で若干いびきが聞こえた笑)

クィアであること、社会的な成功は得ているが、家族がなく独身であること。そのことが、2人しか居住者のいないマンションという形でまずは視覚的に描かれている。加えて、社会的繋がりの少なさや感情の起伏の少なさゆえに映画的な起伏は無いのにも関わらず、むしろそれが中年の危機という静かなる精神的な危機であることを表現していた。

「孤独」という言葉を映画的に表現すると、こうなるのかもしれない。そんな気付きを得ながら、劇場を後にした。
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