Kachi

ジョゼと虎と魚たちのKachiのレビュー・感想・評価

ジョゼと虎と魚たち(2020年製作の映画)
3.8
タイトルが秀逸な作品

作品の中身を知らない人は、何のことか分からないのに、一度作品世界に触れれば、このタイトルだけでどんな作品か思い出せる。色々な解釈はできると思うが、素直に見ればこれは主人公の恒夫がクミ子と出会ってから見てきたものである。

文学少女で絵が得意なジョゼと名乗るクミ子と出会い、奇縁からジョゼと徐々に距離を詰めていく。クミ子からの恋情を仄めかされる動物園で虎を眺めるシーンを挟み、諸々のトラブルを終えて無事結ばれる。水族館は、そんな2人にとっての「生きづらさ」からの解放であり、足を不自由にした者同士の縁(よすが)であった。

原作からの若干の変更はあるが、恒夫とクミ子が距離を近づけていくまでの歩みは説得力があり、終盤にジョゼが作った紙芝居は感涙ものだった。

不器用で口下手なクミ子が、自分の想いを最もうまく伝える手段は絵であることが効果的に使われている。実際、メキシコ行きと研究の日々を諦めかけた恒夫が前を向くためのエールとして、当人でなくとも心動かされる。もっとも、クミ子のせいで怪我をしたという言い方も出来てしまうが、そうではなく恒夫の優しさゆえに招いた不慮の事故であり挫折であったのだと捉えた方が素直な見方であろう。

主演の2人の声を演じた中川大志と清原果耶の好演もあり、心温まる夜のお供となった。
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