ぐるぐるシュルツ

1917 命をかけた伝令のぐるぐるシュルツのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.6
呼吸をすることを忘れて
駆ける、生きる、伝える。

〜〜〜

劇場を出た後、世界の見え方が変わる映画。
ワンカットのようなカメラに自分の視点はシンクロしていってたんだなぁ、と実感する。
それぐらいカメラワークはとんでもなかった。

でも、この映画で胸が打たれたのは、
まさにそこにいるような、
一緒に息が荒くなってしまうような
臨場感も勿論そうなんだけど、
それよりも、
そのスペクタクル劇として
鮮やかなまでの『振れ幅』だった。

狭い地下室から開けた丘。
一人もいない平原から大勢が駆け抜ける戦場。
見ず知らずの赤ん坊の命を守る女性から
見ず知らずの人の命を奪う兵士。
泥と死体と腐った物と鼠の沼から
桜舞う穏やかにせせらぐ小川。
そして夜の逃走劇、
照明弾の光と廃墟の闇。
影は濃く、光は眩い。
(このシーンの最高にドラマチックなサウンドトラックは『The Night Window』という楽曲。これがまた鳥肌立つくらい素晴らしい)

そんな場面場面に
ぴったり寄り添うだけじゃなくて、
カメラは回り込んだり、飛んでみたり、
激しく動き回る。
ちらっと映るサーカスのポスターを見た時、
ふと思う。
あぁ、ほんと、
確かにこれはもう殆どサーカス観てるみたいだってくらいのダイナミズム。

時間軸が、カット割りなく、
ピョンピョン進んでいくのもなんだか劇みたい。
本当にリアルさを追求するなら、
狭い塹壕に二時間掛けてじっとしてるだけ。
そうじゃなくて、
二時間で、ワンショットのように、一日を描く。

そうした駆け足のなか、
目にとまるのは主人公たちだけじゃなくて、
意外にも周りの風景や人々だったりする。
向こうの遠くに舞い散る桜や
すぐ側を通り過ぎる負傷兵。
それに、草や花や木々や水のつぶらさ。
思わずそちらを眺めてしまってる。
どうだろう、
顔のアップだけで成立する映画とは、
次元が違うなと実感する。

1月に一次大戦ドキュメンタリー『彼らは生きていた』で予習していたから、
劣悪な塹壕、
最後の突撃直前の気が触れてしまう緊張感は
なんだかヒシヒシと感じることができた。

〜〜〜

初グランドシネマサンシャインで、IMAX GT。
半端なかった。
横長じゃない、真四角の
本当に巨大なスクリーン。
こういう映画はここで観ることにしよう、と思うくらい。

〜〜〜

一次大戦は殺戮兵器が初めて使われて、
かなり残酷で悲惨な戦争。
でもこの作品では、
グロテスクやメロドラマは極力抑えられ、
生き残り、前に進み、伝えるだけを描いた映画。
その試行を重ねて洗練された表現に、
静かな歴史の重みが相まって、
思わず息を止めてしまう。