イホウジン

1917 命をかけた伝令のイホウジンのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
3.7
【コロナ前鑑賞映画】
リアルな視覚情報とファンタジーな内容の溝

第一次世界大戦の空気をそのまま蘇らせたようなセットはとにかく見事である。直前に「彼らは生きていた」を鑑賞したばかりだったが、その時に目撃したリアルな戦場の空気と決して大差はなかったように思える。あちこちに転がる地雷、後方にいては知る由もない前衛の風景、誇張を感じさせない乾いた風景の余韻が残る。
さんざん宣伝されてたカメラワークも面白かった。そっちに気が向いてストーリーに頭が回らないような感覚もあったが、戦場の緊張感を“時間”の意識によって表現させたのは興味深い。タイムリミット系の新潮流を築けるかもしれない。
(とはいえ中盤のある出来事を顧みるに、今作を映画丸ごとワンシークエンスと表現するのは、ちょっと違うように思える)

しかし、ストーリーに新鮮さがないのもまた事実である。視覚情報だけで満足してしまいそうだが、その中身まで掘り下げていこうとすると意外と面白さに欠けてしまう一面がある。パニックもの,戦争ものとしては手垢の付いた表現ばかりだし、ご都合主義な展開も否めない。2人の主人公の生の極限状態を観るにしては鬼気迫る感じはないし、戦争のリアルを告発するものにしては展開がファンタジー寄りすぎる。ラストも実にありきたりで、分かりきった展開の連続はどうしても途中で飽きが来てしまう。
思うに、同じ戦争を扱ったドキュメンタリー映画「彼らは生きていた」を先に観たのがいけなかったのだろう。スクリーン越しにでも“本物”を観てしまうと、やはり作り物には敵わない部分があってナナメになってしまう。

今作は昨年度のアカデミー作品賞の最有力候補だったが、どう考えてもパラサイトの方が相対的に見て完成度が群を抜いてる。逆に言えば、パラサイトの受賞は「他に獲れる作品がなかった」という冷めた見方もできる。
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