荒野の狼

一人っ子の国の荒野の狼のレビュー・感想・評価

一人っ子の国(2019年製作の映画)
4.0
2019年のアメリカの89分のドキュメンタリー映画。中国で1979年から2015年まで敷かれていた一人っ子政策を主題としているが、内容は中国でのインタビュー取材が中心。政策に批判的なナンフー・ワン監督が自身の体験も交えながら、当時、政策に協力していった村人、親戚、医師の証言がまとめられる。政策には絶対服従しなくてはならなかった立場の人々へのインタビューは貴重で、強制堕胎に協力せざるを得なかった人々の証言を引き出したことは評価できる。インタビューをした相手は、概ね監督の親や祖父の世代の人物が多く、インタビューの合間に挿入される監督のコメントは、政府の政策に無批判であったことに対する厳しいもの。政策に協力し堕胎・中絶に協力したことを後悔している医師や、自分の娘を死に至らしめた心の痛みを持つ人物に対しても、彼らの苦痛に寄り添う姿勢には欠けている。
現在、アメリカに住む監督が、中国では出産を制限したが、アメリカでは中絶を制限しているのは、どちらも女性の権利の侵害であると一言だけであるが述べた点は、一方的に中国だけを非難する姿勢ではなく、この部分ではバランスをとっている。
中国以外の取材では、アメリカのユタ州リーハイに住むアメリカ人夫婦のものがある。彼らは中国から養女をもらっており、この子供たちの実の両親を調べる過程で、海外に養子と言う形で売られていった子供たちと実の親との再会をDNA情報などで行っている。アメリカ人家庭に入り、中国の実の親には興味がないとする子供たちと、実の親のことを知りたいという子供たちなどの実態が、短い時間であるが紹介されているのは貴重。
本作で中国の一人っ子政策に興味を持った人には、この政策を中国の歴史の流れから抑えた優れた文学作品である、ノーベル文学賞作家の莫言の「蛙鳴」(原題は「蛙」)を薦めたい。
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