りっく

一人っ子の国のりっくのレビュー・感想・評価

一人っ子の国(2019年製作の映画)
4.0
男尊女卑、プロパガンダ、全体主義、優生思想、中絶手術、人身売買。一人っ子政策を掲げた国家と、その時代に生きていた国民たち。様々な立場の人間の証言によって、社会的、人類学的、倫理的問題が時を経て次々と浮き彫りになっていく。

本作で視覚的に分かりやすく衝撃的だと紹介されるのは、実際に”2人目”としてこの世に産み落とされてしまったなんの罪もない幼子が大量のゴミと一緒に黄色い袋に入れられ棄てられる無惨としか言いようがない姿だろう。

だが、その実際の写真と同様に、実際に施行した側の人間たちが、国家の政策だから従わざるを得なかったと淡々と当時の詳細を語り、周囲もまるで当事者も歴史の被害者であると言わんばかりに目を瞑る姿もまた衝撃的だ。その点で言えば「アクトオフキリング」と同様の戦慄を覚える。

ひとつの政策により、また新たな悪しきシステムが生まれ、それが未来永劫影響を及ぼし続ける。メディアから芸術まで国家のスポークスマンとして利用され、洗脳された無知で盲目的な国民たちは倫理や道徳観に蓋をされ冷静な判断ができず、人間はここまで非人道的な行為、そしてそれによって利益さえ生み出そうとしてしまう。

これは何も中国のある一時期の話ではない。国民が無関心でいること含め、政治が常に孕む危険性に警鐘を鳴らした普遍性を持つドキュメンタリーである。
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