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マトリックス レザレクションズのmueponのレビュー・感想・評価

3.7
18年ぶりのシリーズ最新作『マトリックス レザレクションズ』観賞。

「今生きている世界は果たして現実なのか?」「誰かに作られた仮想現実ではないか」という問いは誰しも一度は考えたことがあるかもしれませんが、1999年という時代に斬新なビジュアルと未来世界を実写で表現した「マトリックス」は実に革新的な作品でした。

今作『レザレクションズ』は「復活」という意味合いもあり、かつての主人公だったネオ(キアヌ・リーブス)やトリニティー(キャリー=アン・モス)が年齢を重ねた状態でどのような物語が描かれるのかが一つの注目ポイントだったように思います。

一時期『レザレクションズ』が「リローデッド」や「レボリューションズ」を無視した1作目の続編になるのではないかというニュースもありましたが、蓋を開けてみれば三部作のその後を描いた作品となっており、仮想現実を描いた作品にもかかわらずあえて仕切り直しをしなかったのは良かったと思っています。

反面、どこか物足りなさを感じたのも事実で、時代が進んで目新しさがなくなったのか、技術的に似たような作品が増えたからなのか分かりませんが、1~3作目であれだけ目を見張るものがあったアクションシーンは少々雑で単調に感じてしまいました。ワクワク感が足りなかったと言ってもいいかもしれません。

ただ、これも年齢を重ねたネオがかつての全能感を発揮できずに苦悩するシーンが描かれていたことから意図的な演出だった可能性も否定できません。それでももう少し丁寧に描けたのではないか、攻防のワンパターンさは何とかならなかったのかというのが正直な気持ちです。まるで監督自身がマトリックスという仮想世界にダイブすることを拒み続けているような、そんな印象すら持ちました。

「マトリックス」は物語が難解であると言われていますが、今作に関しては理解が追いつかないほどではなかったです。ただ、現実世界と仮想現実があるといった世界観に加え、1~3作目を全く観ずに『レザレクションズ』を観るのは少々無謀と言えるでしょう。自分も過去作品を観たのが10年以上前だったので記憶がおぼろげでしたが、何とかついて行くことが出来ました。

むしろ長い年月をかけて完結した「シン・エヴァンゲリオン劇場版」と同様、比喩や考察を喚起するようなセリフはやや後退し、現代的なテーマに対してきちんとした言語的なアプローチが取られていたのが印象的。「鬼滅の刃」もそうですが、空白を持って想像させるのではなくきちんと言葉で説明するのが現代風だと言えます。

女性の活躍ぶりがめざましいのも今作の特徴の一つ。トリニティーもさることながら、メインの主要キャラのほとんどが女性。監督の思想や人生観に変化があったのかもしれませんが、20年近く経ってある種時代を反映するようになったと言えるかもしれません。明らかに過去作品とはカラーも方向性も違いました。

物語はメタ構造でユーモアもあり、時折過去作品のトリロジー映像がフラッシュバックするような演出はノスタルジーすら感じさせます。ただ、この世界がその後どのようになったのかは今作においても完結しなかったので、このまま終わってしまうのか、続いていくのかは気になるところです。

個人的にモーフィアスを演じる俳優がローレンス・フィッシュバーンからヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世に代わったのは違和感ありで、同一キャラクターだと思いつつも最後まで馴染めませんでした。

フィクションでありながらも、人類が人工知能AI(機械)との戦いに負け、ポッドで眠りながらもそれに気づかず、AIが作った仮想現実世界=マトリックスで暮らしている夢を見せられ、更にそれを現実だと思っている(システムに囚われている)世界観はどこか不気味で子どもの時は全然馴染めませんでした。

しかし大人になってから観ると、夢だ自由だと言いながらも日々安定した暮らしを望んで同じ場所に居続けたり、単調でループする生活を自ら望んで居心地のよい場所から離れられない自分もどこかにいて、支配や従属というのは人間的な心理を上手く利用しているのだなと気付かされます。

そういった意味で改めて「マトリックス」の物語の凄さを感じました。
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