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2人のローマ教皇のNMのレビュー・感想・評価

2人のローマ教皇(2019年製作の映画)
3.8
主演二人が本人にそっくり過ぎてまずそこが面白い。
二人の関係が前半と後半でまったく変わっているのは見どころ。
考え方が全く違う人とどうやって関係を築くかの一つの見本。

先に教皇となったベネディクト16世。神学の権威であり教会の支持を受けた彼だが、世間での評判はイマイチ。超保守的といわれ、教会の不祥事についての取り組みが消極的とされた。
そのコンクラーベでは枢機卿ホルヘにも票が集まった。しかしホルヘは思うところあってもう枢機卿(司祭のまとめ役。偉い人。)の座を引退したいと思っていた。なかなか認められずにいたがやっとローマから呼び出しがあり引退の伺いへ向かうホルヘ。教皇に謁見すると案の定けんもほろろに断られ、会話もままならない。
この二人がどのように関係を築いていくのか、そしてこんな状況だったホルヘがどういう経緯で次期教皇へと就任するに至るのか……。

冒頭、何やら民間のサービスに自ら電話を架け切られている現教皇フランシスコ。彼は特に就任当時よくこういうことをしたのは有名。今までそんなことは周りの人々がしてきた。
続いて聖フランシスコが召命を受けた時のエピソードが一節語られる。現教皇はこの聖人に憧れて教皇名をフランシスコにしたという。「教会を建て直せ」という言葉は教皇就任にあたり彼にも響いたことだろう。今も聖フランシスコの十字架を首から提げている。

はじめは、ホルヘのほうが誠実で、教皇のほうが頑固で話の通じない人物に見える。
教皇はホルヘに対しもともと良くない印象を持っていたらしい。初対面ではこの後こじれる予感しかしないが、流石に教皇ともあろう二人がそこまで単細胞なわけはなかった。
教皇の態度に屈せずへりくだりつつも主張を通そうとするホルヘ。話をしながら少しずつお互いを知り合っていく。教皇の好きな食べ物、趣味、自分とは異なるが、異なるということ自体を実感的に理解していく。

中盤を機に状況が変わり、辞めたがるのはホルヘから教皇へ。
完全に立場が入れ替わる様子が面白い。この作品は真面目ではあるが至るところにユニークさが溢れている。そのため教皇庁の話にもかかわらず教会内での特別な状況というよりは、むしろ誰にでも当てはまりそうなことで、人間関係の小さないざこざや自分の中に強く残るわだかまりとの付き合い方などは共感しやすい。
今度は慌てて教皇を引き留めるホルヘ。しかし今まで自分が言ってきたことがあるため教皇を止めることが難しい。

教皇はホルヘを突っぱねているだけではなく、重要な決断を前に彼を観察し、黙考していた。他人を理解できていく様子が疑似体験できてとても爽快な感情をおぼえる。

矛先がホルヘに向きだす。しかし彼には克服すべき過去がある。
母国が弾圧されたとき、彼なりに必死に動いたつもりだがむしろ裏切り者のような目で見られた。若い管区長だった彼の言葉は年上の先輩たちをまとめるには至らなかったようだ。
何より彼自身が、自分の判断は間違っていたのでは、努力が足りなかったのでは、行動にエゴやプライドがあったのでは、という強い自責の念に苦しんできた。
今では彼が命がけで多くの民間人をかくまい逃がしてやった功績のほうが評価されている。

左遷のような二年間で彼は何を思っていただろうか。こんな状況でもなお人々を救わねばならない。落ち込んでも引きこもることが許されない職業。自分を恥じていても人の前に立たねばならない葛藤はいかほどか。彼自身が救いを求めていた。説教のシーンからすると彼は嘘やはったりを言わず、人々にも自分自身にも誠実に向き合っていたようだ。

ヤリクスとの和解のシーンは感動ポイントの一つ。お互いを憎く思ったこともあったはずだが、神が仲介し再び抱き合うことができた。たやすいことではない。こんなことができるなら宗教も悪くないではないか。
一連のエピソードはまさに映画的。

二人が昨日までのように普通に会話していると思いきや、結果的に告解となる。思いがけず教皇から赦しの秘跡を受け勇気を得たことだろう。ここは第二の感動だった。教皇といえども自分自身を受け入れるというのは一人でやるには難しいことだろう。ずっと抱えていた思いを、目の前の相手が理解してくれる経験。それでも神はゆるして下さるよという断言。
そのあとピザを食べるシーンはそれまでとの対比もあってとても面白い。

つづいてホルヘには教皇の退任を理解し認めるという作業が残っている。
教皇が弱い立場の人を救わなかったことは彼にとって見逃せない事実だった。ホルヘも同じ経験を持ちながら、だからこそ、人をゆるせないらしい。人は、自分と同じような人こそ嫌ってしまうのかもしれない。
しかしそんなこだわりを捨てて相手をゆるすことができる秘跡というのは素晴らしい。人間は問題を自力のみでは解決できないとき、神の力を借りてもいい。

最後にはもう完全に親友になっていて面白い。それ以上。気難しそうだった教皇にこんなことまでさせられるのはホルヘぐらいだろう。お付きのSPたちもやっと笑顔を見せる。

教皇フランシスコ就任のシーンで一瞬現れる侍者もまた本人にそっくりでおもしろい。
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